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あかり「それならあかりに恋してよ!」

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http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 22:38:44.44 ID:LxWee7BO0

「それじゃまたね」
「また明日ー」

そんな声の飛び交う校門を、私は一人くぐりぬけた。
後ろから誰かが「あっかりーん」と笑いながら走りすぎていく。

あかり「もう、あっかりーんじゃないよぉ」

高校生になってからつけられたあだ名。
あかりちゃんと呼んでくれる子は、随分と少なくなってしまった。
別に嫌なわけでもないんだけど。

ふと携帯が震えて、私はポケットから冷たい携帯を引っ張り出した。
意外な人からのメールだった。

『件名:Re:
 本文:今日一緒に帰らない?駅前で待ってるね』


2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 22:41:46.09 ID:LxWee7BO0

私の予定なんて関係ないのだ、ちなつちゃんには。
何があってもちなつちゃんに呼ばれれば私はすぐにほいほいと行ってしまうから。
ちなつちゃんもそれをわかっているのだ。

吉川ちなつちゃん。
中学生の頃からの同級生で親友――だった。

だった、というのは今ではもう、本当にそうなのかわからなくなってしまったから。


4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 22:49:47.75 ID:LxWee7BO0

中学校を卒業して、ちなつちゃんとは同じ高校に入学した。
けれど入学するなりそれまで一緒だったクラスは完璧に離れてしまい、
それだから話す機会ももう、めっきりと減ってしまっていて。

たまに、こうしてメールや電話のやり取りだけ。
それだけが、私とちなつちゃんを、そして私の淡い気持ちさえ繋ぎ止めてしまっていた。

あかり「……」

『件名:わかったよ!
 本文:今学校を出たところだから、すぐに行くね!』

私はそうメールを返すと、携帯を閉じて足早に歩き始めた。
ちなつちゃんに会えるとわかっただけで、寒くて重かった足が突然軽くなった気がした。


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 22:56:46.89 ID:LxWee7BO0



そこはちょうど帰宅しようとする生徒で溢れかえっていて、
同じ制服の後姿ばかりで毎日目が回りそうになる。
それでも、ちなつちゃんの姿はすぐに見つけた。

駅前、噴水の端に俯きがちに腰掛けている女の子。

あかり「ちなつちゃん」

私は一瞬躊躇うように立ち止まって、それからそう呼びかけた。
寒さのせいか、声が少し震えた。

ちなつちゃんが顔を上げる。


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 22:59:52.37 ID:LxWee7BO0

ちなつ「あ、あかりちゃん」

しばらくの後、ちなつちゃんはようやく私の名前を呼んでくれた。
「ごめんね、誰に呼ばれてるかわかんなかった」と、
そう笑いながら足元に置いてあった鞄を持ってちなつちゃんは私に駆け寄ってきた。

あかり「ひどいよぉー」

ちなつ「ほら、今メールしてたから」

そう言いながら、ちなつちゃんはまた携帯に視線を落とした。
その指先があまりに滑らかに動いているから、あぁまたなんだとぼんやり思う。


7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 23:03:48.26 ID:LxWee7BO0

あかり「今日は誰かと一緒じゃないんだね」

あかり、いつからこんなふうな聞き方をするようになっちゃったのかなぁ。
ちなつちゃんは「うん?」と一瞬私を見上げてから、あぁと笑った。

ちなつ「つい最近、別れちゃったから。今は別の子を誘惑中って感じかな」

あかり「……そっか」

頷きながらも、私はそっとちなつちゃんから視線を逸らした。
相変わらずちなつちゃんは可愛いなって思う。
だからこそ、ちなつちゃんはひどい。


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 23:08:51.44 ID:LxWee7BO0

ちなつちゃんは、高校生になってから色々な子と遊ぶようになった。
べつに危ないことをしているわけじゃないけれど、その中で、特別な関係になる子がいるらしい。
特別な関係というのは、もちろん恋人で。

ちなつ「……結衣先輩、元気にしてる?」

ふいに、ちなつちゃんは携帯から視線を上げないまま訊ねてきた。
私は知らないよ。そう答えても良かったのに、うん、元気と律儀に答える。

あかり「ちなつちゃんにも、会いたがってるよ」

ちなつ「……ふーん」


14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 19:14:37.97 ID:Ra7dRp5g0

ちなつちゃんは興味なさそうに相槌を打ちながら、
メールを打つその手は止まっていた。

一年先に卒業した結衣ちゃんのことを、ちなつちゃんは今でも好きなんじゃないだろうか。
私には、よくわからないけど。
でもきっとそうで、だからこそちなつちゃんは無理に誰かと付き合おうとしている。

そんなちなつちゃんに、今でもドキドキしてしまう私はきっと、ちなつちゃん以上に
諦めが悪い。


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 19:17:37.19 ID:Ra7dRp5g0

私は昔から、基本的になんでも一生懸命にやったし、なんでも好きだった。
けれどここまで誰かのことを好きになったのも消えてくれないくらいの気持ちになったことも、本当に初めてで、その初めてがずっと今でも続いている。

でも、諦められるはずなんてなかった。
こんなふうな、つかず離れずの宙ぶらりんな関係。


16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 19:21:21.95 ID:Ra7dRp5g0

ちなつ「あかりちゃん、どっかよってこっか」

ちなつちゃんんは何かを吹っ切るように携帯を閉じたあと、私に笑いかけてきた。
あまりにも自然な動作で、私の右手に自分の左手を滑り込ませてくる。
もうすっかりなれているはずなのに、いちいちと心臓がはねて、それを隠すために「どこ行こっかぁ」と私も笑い返してみた。

―――――
 ―――――


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:11:26.07 ID:Ra7dRp5g0

ちなつちゃんを好きになったのは、もういつのことだったかよく覚えていない。
ただ意識し始めたのは、ちなつちゃんが結衣ちゃんの卒業と同時に片思いをやめた(と本人が言っていた)頃からだったと思う。

ずるいのかなぁ、とも思うけれど。
ちなつちゃんがあんなに真直ぐ結衣ちゃんに片思いしていたのを知っていたから。
結局、本当のところは随分と前からちなつちゃんのことを気にしていて、ちなつちゃんがもう誰も好きじゃないと言っていたのを聞いて自分の気持ちに嘘をつけなくなって。

あかり「……ただいまぁ」

ちなつちゃんにずっと片思いの自分が嫌になる。
どうせこれ以上進めないとわかっているのなら、さっさと諦めるか忘れるか、それとも告白して玉砕しちゃえばいい。だけど、それすらもできずにいる。

あかり、いつまで片思い続けちゃうんだろうなぁ。


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:15:44.14 ID:Ra7dRp5g0

ちなつちゃんと別れ家に帰り着いた私は、そんなことを思いながら緩慢な動作で靴を脱いだ。
さっきまで握っていたちなつちゃんの手の感触。
それから鞄の中に入っているであろう、買ったばかりのお揃いのシャーペン。
そんなもの全部が、私の中で大きく膨らんで、ますますちなつちゃんのことを忘れさせてはくれない。

あかり「……あれ?」

靴を玄関先に並べながら、私はふと動きを止めた。
返事が返ってこなかったからお姉ちゃんも出掛けているはずで、もともとお父さんとお母さんも家にいることは少ない。けど、自分のものではない靴が脱ぎ捨てられている。

履き潰されたスニーカー。


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:18:46.55 ID:Ra7dRp5g0

私はもしかして、と思いながら居間をそっと覗いてみた。
ドア越しに後姿のソファーが見えて、そのソファーの背から見覚えのあるリボンがにゅっと顔を出していた。

あかり「……京子ちゃん?」

そっと声をかけてみた。
返事はない。
けれど、京子ちゃんには間違いない、ちゃんと確かめてはいないけど。奥のテーブルに置いてある大量の漫画本がその証拠。


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:22:30.07 ID:Ra7dRp5g0

私は居間に入ると、京子ちゃんにそっと近寄った。
案の定すやすやと気持ち良さそうに眠る京子ちゃんがいた。

私の一つ年上の幼馴染で、今は同じく幼馴染の結衣ちゃんと一緒に別の高校に通っている。
家は近所だけど学校が違うから朝も会うことは稀で、そういえば京子ちゃんの顔を見るなんて随分と久し振りだと思った。

京子ちゃん。
少し大きな声で京子ちゃんの名前を呼んで、身体を揺すってみた。

京子「あともうすこーし……」

あかり「ここ、あかりん家だよ京子ちゃん!」


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:26:11.03 ID:Ra7dRp5g0

京子ちゃんのあまりにアットホームな返事につい反射的に突っ込むと、京子ちゃんは驚いたようにがばっと起き上がった。
それから私と目が合うと、「……あかりはうるさいなあ、もう」

あかり「い、いきなりそんなのひどいよ!?」

京子「せっかくミラクるんと一緒に戦う夢見てたのにー」

あかり「ご、ごめんねぇ……」

そう謝ると、京子ちゃんは寝ぼけ眼のまま、小さく「相変わらずだなあ、ほんと」と笑った。
それから大きな欠伸を一つ。
私は台所に立つと、「お茶でいいかな?」と声をかけた。


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:29:41.57 ID:Ra7dRp5g0

京子「トマトジュース」

あかり「そんなのうちにはないよぉ」

京子「じゃ、お茶でいいや」

私はうん、と返事をして冷蔵庫から冷えたお茶を取り出した。
もう冬だというのに、家ではまだキンキンに冷やした麦茶があるのだ。
それをコップに二人分注いで、一つを京子ちゃんに手渡した。

京子「つめたっ、寒っ!」


24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:31:31.26 ID:Ra7dRp5g0

あかり「あったかいの、沸かしたほうがよかった?」

京子ちゃんはけど、「いや、別にいいよ」と言うと、喉がそんなに渇いていたのか、冷たいお茶を一気に喉の奥へと流し込んだ。
それから徐に、「ちなつちゃんとは逆だよね」と呟いて。

突然京子ちゃんからちなつちゃんの名前が出てきて、それが予想外だったからついどきりとしてしまった。「どうして?」と、そう訊ねるのが精一杯。


25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:36:22.36 ID:Ra7dRp5g0

京子「え?あぁ……別に大した意味もないんだけどな」

そう言いながら、京子ちゃんはまだ私の飲んでいないお茶を当たり前のように取り上げて
もう一口含んだ。
また「つめたっ」というように顔をしかめながら。

私は手持ち無沙汰になって、テーブルの椅子に座り適当に置いてあった鞄の持ち手を足でいじりながら「うん」と頷いた。

京子「あかりの家は冬でも冷たいお茶だけど、ちなつちゃんは夏でも熱いお茶だったなって」

なんか急に思い出しちゃった、というように京子ちゃんは言って。
それから、「最近ちなつちゃん見かけたからかなあ」と首を傾げた。


27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:41:28.81 ID:Ra7dRp5g0

あかり「最近、ちなつちゃん見かけたの?」

私は鸚鵡返しのように京子ちゃんに訊ねた。
小さく頷きながら、京子ちゃんはまた冷たいお茶を一口飲み込んだ。

京子「なんかちなつちゃん、誰か女の子と一緒にいたから声かけらんなかったんだよなあ」

京子ちゃんが声をかけるのを躊躇うほどなのだから、よっぽど親密な空気だったんだろうということは容易に想像できた。
実際、私も何度かそんな光景を見たことがあるから。


28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 21:54:35.97 ID:Ra7dRp5g0

あかり「……そっか」

ミラクるんに似てたのは変わりないけど。
京子ちゃんがぽつりと呟いたのを聞いた。そのあとに省略されている言葉は、鈍感なはずの私でもわかってしまった。

変わっちゃったね。
私は京子ちゃんの代わりに思った。
ちなつちゃんもそうだけど。私たち元ごらく部四人の関係も、微妙に変わってしまって。

そういえば、こうして顔を合わせて、話す京子ちゃんも。
なんだかすごく、大人びて見えた。高校二年生になった京子ちゃん。もうあと数ヶ月で三年生になって、受験生できっと今以上に会えなくなってしまうのだろう。もちろん、結衣ちゃんとも。


29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 22:03:35.22 ID:Ra7dRp5g0

特に京子ちゃんたちの学校は進学校だから、勉強に追いつくことすら大変だとよく噂で聞く。
もしかして、机の上に置いてあるマンガは京子ちゃんが。
以前のように、買い貯めておいたマンガやお気に入りのマンガを読みに家へ来たのかなとか、最初はそんなふうなことを呑気に考えていたのに。
私がマンガに向ける視線に気付いたのか、「あぁ、それ」と呟くように言った。

京子「それ、あげるわけじゃないよ」

あかり「そ、そんなのわかってるよ」

京子「ただ置いとくだけ」

置いとくって。
私は言った。

京子「私もそろそろ受験だからさ。しばらくはこういうのも控えなきゃなって」

「さすがの私も大学受験は一夜漬けじゃきついからな」と自嘲気味に京子ちゃんは笑った。
その様子が全然京子ちゃんらしくなくって、なんだか突然、遠くの存在のように思えた。


30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 22:10:48.64 ID:Ra7dRp5g0

京子「だから預かっといて」

あかり「……わかった、預かっとくね」

ふと背表紙を見た限り、京子ちゃんの大好きなミラクるんや、その他京子ちゃんが大切にしていた沢山のマンガ本が沢山、どんっと山になって積んであった。

京子「お姉さんもびっくりしてたよ、これ持って来たときどうしたのって」

あかり「お姉ちゃんに会ったの?」

京子「会わなかったら入れてなかったじゃん、私」

私はそうだったねと笑った。
それでも京子ちゃんは昔よく家に来ていたからここに京子ちゃんがいることに違和感を感じないのだ。久し振りとはいっても。


31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 22:17:12.56 ID:Ra7dRp5g0

けど、とも思った。
京子ちゃんの変化もそうなのだろうけど、今私の中であるこの違和感はいったいなんなんだろう。

あかり「……最近、結衣ちゃんからあんまりメール来ないの」

京子「結衣も勉強忙しいみたいだからなー」

あまりに他人事な口調。
京子ちゃんがいるのに違和感を感じない一番の場所は、結衣ちゃんの家だ。
それなのに、京子ちゃんは今日、家へ来てマンガなんか置いていって。

結衣ちゃんの家にマンガを置いて、控えなきゃなとか言いつつ結局結衣ちゃんの部屋に入り浸ってマンガを読んでるほうがよっぽど京子ちゃんらしい。それで同じ受験生の結衣ちゃんは結衣ちゃんで、鬱陶しそうにしながらもそんな京子ちゃんを受け入れるはずなのに。


32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 22:20:46.56 ID:Ra7dRp5g0

あかり「ケンカでもした?」

私は不安になって、つい、そう訊ねてしまっていた。
京子ちゃんは一瞬きょとんとすると、「違うよ」
確かにそう、首を振って。

京子「結衣、国立のすっごい難しいとこ受けんだって」

あかり「京子ちゃんは――」

京子「私もそれなりのとこだけど、たぶん結衣とは同じとこいけないかなって。偏差値的にも」

こつこつ勉強しなかった分のつけがまわってきちゃったみたいだわ。
半分になったお茶を、最後まで飲み干すと京子ちゃんは立ち上がった。


33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/17(木) 22:26:46.11 ID:Ra7dRp5g0

頑張って一緒のとこ、行けばいいのに。
そうも言えたはずなのに、私は――私たちはもう、簡単にそう言えるほど現実を知らないわけじゃない。

京子「あかりにも会えたし、そろそろ帰るかな」

あかり「……うん」

京子「んじゃまた今度、あかり」

そう言って京子ちゃんはもう私に背中を向けててを振った。
京子ちゃんが出て行った音がする。私は見送りもせず、ただ京子ちゃんから受取ったばかりの二つのコップを手にして、ぼんやりしていた。

あんなに仲の良かった二人なのに。
どうして時間の流れって、こんなにも残酷なんだろうか。
私はふと、少し未来のことを想像してみた。

私とちなつちゃんも、京子ちゃんと結衣ちゃんのように離れてしまうんだろうか。
足元の鞄。
その中に入っているお揃いのシャーペン。けれど、ちなつちゃんの手の温もりはすっかりなくなってしまっていた。


37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 19:43:40.85 ID:J6PL+c0g0



中学生の頃と違って、毎朝起きる時間はだいぶ遅くなった。
けれど、起きる時間は遅くとも電車の時間はきっかり決まっているから、登校時に関しては中学生のときよりも随分と不自由になったと思う。そして高校に入学してからもうだいぶ経つのに、私は未だに満員電車というものに慣れていない。

がたたん。
ごととん。

小さい頃から電車という乗り物が大好きだった。特に線路を走るこの音が。
けれど今日は、その音に耳を傾けていてもちっともわくわくなんてしなかった。

あかり「……」

昨夜は上手く眠れずに、むっとするほどの人の群の中、私はうとうとと電車の揺れに身を任せていた。後ろの人に足を蹴られたり、前の人に思い切りぶつかられたりしながら。


38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 20:59:16.05 ID:J6PL+c0g0

『次はナモリ前、ナモリ前です。お出口は左側――』

だんだんスピードが遅くなってきて、やがて止まる。
次の駅で降りなきゃ。
そんなことを考え、つり革を握る手に力を込めかけたときだった。

ドアが開いて、外へ出ようとした人の手が私の身体をどんっと押した。
ぼうっとしていたから私の身体はふらついて、そのまま外へ流れ出す人の波に逆らうこともできないままに電車の外に出てしまった。

知らない駅のホームに立っているのが変な感じだった。
「あっ」
気が付いたときにはもう遅くて、私の目の前でドアが閉まる。


39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:03:24.77 ID:J6PL+c0g0

あかり「……行っちゃった」

ぽつり、呟く。
電車は私を置いて、走って行ってしまった。もう見えなくなりそうな電車の後姿から顔を逸らすと、ホームにはもう、ほとんど人の姿はない。皆会社だったり学校だったり、目的の場所に急いでいたから。ここでもまた、誰からも置き去りにされてしまったらしかった。

どうしよう。
辺りを見回してすぐにみつけた電光掲示板を見上げる。

次の電車までは、あと10分はある。
けどそのあと10分が命取りで、遅刻は確定したようなものだった。今日はいつもより一本遅い電車だったのだ。それでこうなってしまったのだから、私はとことん運がないのかもしれない。


40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:08:09.06 ID:J6PL+c0g0

サボろうかな。

そんな考えが、あまりにも自然にあかりの中で浮き上がってきた。
私は一瞬そのことに驚いたものの、けれど一度くらい――私の中の誰かが、私にそんなふうなことを囁いた。

あかり「……」

だらんと下げた左手に握っている定期をつり革の代わりにぎゅっと握ると、
私は誰かいるわけでもないだろうに同じ制服姿の子がいないかどうかを確認してから、知らない駅の階段をゆっくりゆっくり上っていった。


41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:12:51.02 ID:J6PL+c0g0

―――――
 ―――――

駅を出ると、何度か家族で来たことのある場所が広がった。
学校帰りに寄り道することはあっても、わざわざこの辺りまでは来ないのだ。
通勤通学ラッシュが過ぎたせいか朝の駅前だというのに妙にしんと静かだった。

制服姿の私がなんだか場違いな気がして、私はそそくさと歩き出す。
目的地があるわけなんてなかった。
けれど、学校に行く気は起こらずにまだきちんと目覚めていない頭で私はぼんやりなんとかなるかなぁと考えて。


42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:19:34.22 ID:J6PL+c0g0

知らない場所を歩くのは楽しかった。
一人でいるのは少し寂しい気もしたけれど、制服姿だということを忘れて知らない場所で自分の思うままにまだ開いていないお店や、開いたばかりの眠そうなお店を覗いて回った。

商店街も家の近くにある錆びれかけた商店街よりずっと大きくて活気があった。
そこをまわっていると、気が付けばもうとっくに一時間目が過ぎていて、休憩の時間になっていた。
歩きつかれて誰もいないベンチに座り、携帯を開ける。

友達からどうしたの?という心配そうなメールが数件、届いていた。
あかり、みんなに心配されちゃってる。
そのことに少し申し訳なくなりつつ嬉しくもなってしまう。そのメールの中にもしちなつちゃんの名前があったのなら私はすぐにでも学校に戻ろうとするのだろうけど。

クラスも違うし朝も一緒に行かなくなってだいぶ経つから、ありえないとわかっていても私はそんなことを考えた。
それでよけいに、ようやく上を向きかけた気分が下降。

だめだなぁ、あかり。


43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:28:27.76 ID:J6PL+c0g0

本当に、あかりってだめな子だと思う。
少なくとも、自分の大切ななにかに関してはとことんだめだ。

ずっと自分ではなく他人を優先してきた。
私はそれでいいと思っていた。自分は傷付いてもよかった。けれど、他人を――ちなつちゃんの気持ちを優先することで、結局ちなつちゃんは傷付いた。結衣ちゃんのことを想い続けて、傷付いてしまった。だったら私がちゃんとすぐに自分の気持ちに気付いて告白していれば。そうも思うけれど、それだって私のエゴだ。

そんなふうに、考え込んでしまうことがきっといけない。
大きくなるにつれて、考えることの方が行動することよりも多くなってしまったのだけど。

あかり「……」

昨日、京子ちゃんから聞いたこと。
どれだけ仲が良かったって、結局は離れてしまう。
京子ちゃんの大人びた顔や、声や、言葉が頭の中を埋め尽くしている。

ちなつちゃんに会いたかった。
会いたいのに、会うのが怖くて。


44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 21:36:55.58 ID:J6PL+c0g0

今会ったらきっと、私はちなつちゃんの存在がちゃんとあることに安堵する。
けれど今会ったらきっと、私はちなつちゃんの存在が消えてしまうんじゃないかと、そんな錯覚に陥ってちなつちゃんに縋ってしまうかもしれない。

あかり「……もう」

ぱたん。
閉じた携帯。
また数件メールが届いたけど、気付かない振りをした。


45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 22:22:42.87 ID:J6PL+c0g0



いっそ、自分だけのことを考えられたら。
たまに本気でそう思うときがある。

学校のことも、友達のことも、京子ちゃんや結衣ちゃんのことや、それからちなつちゃんのことも、何も考えずにただ自分だけを守れるのなら。
それはとても幸せになれる気がするけれど、本当のところはどうなのか、わからない。

あかり「……ん」

いつのまにか眠ってしまっていたらしかった。
私は固くなった肩と首に思わず顔をしかめながらも傾いていた身体を起こした。
もう、日は高くまで登っていた。思った以上に眠ってしまっていたらしかった。
とりあえず鞄や持ち物は無事なので、ほっと安心。


46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/18(金) 22:25:42.70 ID:J6PL+c0g0

朝の寒さは太陽の光がだいぶやわらげてくれていた。
私は立ち上がる。

さすがにもう学校に戻らなきゃいけないかな。

そう思って、ふと帰り道のほうに目をやったときだった。
なんだか見覚えのある背中。
それから、太陽の光に負けないくらいやわらかそうな髪が。

あかり「……ちなつちゃん」

するりと、声が私の奥からこぼれた。


51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:05:28.87 ID:woe061hZ0

こぼれただけで、もちろん遠くのほうにいるちなつちゃんに私の声が届くはずなんてなかった。慌てて口を噤んだものの、それに気付いた私は声の代わりに大きく息を吐き出した。
ふと時計を見る。まだ昼休み直前、普段の私ならそろそろお弁当のことを考え始める時間帯。

あかり「……」

ちなつちゃんの横には見知らぬ制服姿の女の子が数人、いた。
平気で学校をサボるようなことはしなかったはずのちなつちゃんなのに。
笑い声。触れ合っている身体と身体。そんなものを見るのが嫌で、私はそっとその背中から目を逸らした。

唐突に、ちなつちゃんはすり抜けてしまったのだと思った。
掴んでいた手をすり抜けて、ちなつちゃんは私には到底届きそうもない遠くのところへ、一人で行ってしまったのだと。


53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:23:14.25 ID:woe061hZ0

―――――
 ―――――

ただいまも言わずに家に帰ると、私は自分の部屋に飛び込んだ。
今は誰の声も聞きたくはなかった。自分ひとりの殻に閉じこもって、このとっても私らしくない感情が過ぎ去るのを待っていたかった。

あかり「……どうして」

誰にともなく、呟いた言葉。

どうして、ちなつちゃんはあんなに変わってしまったのだろう。
どうして、結衣ちゃんも京子ちゃんも。
あかりだって、どうして。

あんなふうに誰かと一緒に笑って触れ合うちなつちゃんを見たって、ずっとずっと、こんな気持ちになることなんてなかったのに。誰かを妬むことなんて、したくなかったのに。


54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:37:05.29 ID:woe061hZ0

答えなんて誰も知るはずがなかった。
この気持ちをどこにぶつければいいのかも、ぶつける術さえも私は知らない。
一度だけ、ちなつちゃんが「あかりちゃんって変なとこで子供っぽいよね」と、私にそう言って困ったように笑ったことがあったのを思い出す。

もう、どんなことに対してだったのかは忘れてしまったけれど。
ちなつちゃんが平気な顔で嘘をついて、そのことに驚いて「だめだよ!」と言った私を、ちなつちゃんはそう言ったのだ。

今になって、その言葉が少しわかった気がした。
私は悪い気持ちの処理の仕方がわからない。悪いことに対して悪いと、素直にそう言ったって通じない場所に私は来てしまっているのだ。上手く付き合っていくのが大人なのだとすれば、私は間違いなく子供で。

いつまでベッドにうずくまったままそうしていたのだろう。

あかね「あかり」

学校を早退したと思って、きっと心配しているであろうお姉ちゃんがこんこんと部屋の扉を叩いた。返事をしない私に、お姉ちゃんは「お客さんよ」ともう一言。
ふと布団から顔を出すと、部屋はすっかり薄暗くなってしまっていた。


55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:42:50.95 ID:woe061hZ0

あかり「だあれ?」

くぐもった声で、訊ねた。
お姉ちゃんは私がようやく返事をしたことで、少しだけ声の調子を軽くした。
「あかりのお友達」

あかり「……お友達?」

あかね「入ってもらうわね」

うん、と頷く間もなく暗い部屋にほのかな廊下の光が入ってきた。
少し眩しくて、思わず目を細めた。狭い視界の中見えたのは、他でもない、ちなつちゃん。


56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:50:06.57 ID:woe061hZ0


――ちなつちゃん。

あかり「……ち、ちなつちゃん!」

がばっと身を起こして、それでまだ制服姿のままだったことに気付いた私は慌てて髪だったり皺になっている制服の箇所を手で直した。
自分の気持ちがぐちゃぐちゃになっていても、ちなつちゃんの前ではどうしても変な姿を見せたくないと思ってしまう自分が嫌にもなるし、それでいてまだ、私のちなつちゃんへの気持ちは変わっていないのだと悟った。

ちなつ「突然来ちゃってごめんね」

あかり「う、ううん……」

ちなつ「携帯に電話しても出ないし、メールも返ってこないから」

お姉ちゃんは「ゆっくりしていってね」と少しだけ心配そうな顔で私とちなつちゃんを見比べてからぱたんとドアを閉めて出て行った。
私は「えっ」と慌てて鞄に放り込んであった携帯を開ける。


57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 21:55:36.86 ID:woe061hZ0

着信が数件と、新着メールも同じく数件。
全部ちなつちゃんからのものだった。

あかり「ご、ごめん……」

ちなつ「ううん、いいんだけど」

そう言いながらちなつちゃんはあまり重そうではない鞄をよっこらしょと部屋の隅に置いて、ぽすっと私の隣に腰を下ろした。
ちなつちゃんがいつも私の家へ来たとき、必ず座る場所。

あかりちゃんのベッドってふかふかで気持ちいいんだよねー。

そう言いながらいつまでも帰ろうとしなかった日のことなんかを思い出して。
こういうところは変わらないものなんだと、そんなことを考えた。
触れそうなほど近い、ちなつちゃんの隣。


58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 22:04:21.00 ID:woe061hZ0

あかり「……どうしたの」

そっとスカートのひだを直しながら、私は訊ねた。
ちなつちゃんは「あかりちゃん、今日学校来て無いって聞いたから」
ほとんど呟くような調子だった。

一瞬、昼間に見たちなつちゃんの後姿が脳裏をよぎって、ひどく嫌な気分になった。
ちなつちゃんは私に気付いていたのだろうか。
でもきっと、今のちなつちゃんがそんなことで私に会いに来るはずなんてない。それとももしかしたら、口止めさせるつもりなのかも。

そこまで考えて。

ちなつ「……たまに、あかりちゃんに会いたくなるときがあるんだよね」


59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 22:39:42.29 ID:woe061hZ0

どきんと心臓がはねた。
ちなつちゃんが、突然来ちゃってごめんね。そう言って笑う。

あかり「……ううん」

首を振ることが私の精一杯だった。
どうしてちなつちゃんがそんなことを言うのか、わからなかった。
ちなつちゃんはけれど、自分が特別なことを言ったという意識はないらしく、ぐっと手足を伸ばしてベッドの上に寝転がった。

ちなつ「人伝に、結衣先輩が国立の大学受けるんだって聞いたよ。出てっちゃうのかな、ここ」

そう言いながら、ちなつちゃんはなんの表情も浮かべていなかった。
一瞬だけ上がった気持ちが、一気に沈んでいく。けれどそれ以上にちなつちゃんの表情が私にとってひどく不安だった。

ちなつ「京子先輩は、どうするつもりなのかなあ」

あかり「……違うとこ、受けるんだって」

ちなつ「ふーん……そっか」


60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 22:46:28.66 ID:woe061hZ0

天井を見上げていたちなつちゃんは、ふと私に顔を向けた。
「どうしたの」と困惑気味に訊ねると、ちなつちゃんは小さく苦い笑みを浮かべた。

ちなつ「私、あかりちゃんの顔見ると何があっても安心しちゃうんだよね」

あかり「……そう、なんだ」

ちなつ「けどね」

今は、安心しても泣きたい気持ちがおさまんない。

困ったようにちなつちゃんは言った。
それからぱっと私から目を逸らすと、顔を横に向けてしまった。ごしごしと目許をこするちなつちゃんの姿を、私はぼんやりと見詰めた。


61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 22:54:32.86 ID:woe061hZ0

きっと、結衣ちゃんのことだ。
ちなつちゃんはまだ、結衣ちゃんのことが好きだから。

あかり「……ちなつちゃん」

何を言えばいいのかわからない。
浮かんでは消えていく言葉を、私は必死で拾おうとして、また落として。

ちなつ「……ねえ、あかりちゃん」

あかり「……ち、ちなつちゃん。あのね、結衣ちゃんは確かにどこか行っちゃうかも知れないけど、でも会えないわけではないし、だから……」

こんなこと、本当に自分が言いたいのかどうかはわからない。
ただ、こんなことしか言えなかった。
ちなつちゃんは一瞬の沈黙の後、「違うよ」と言った。

あかり「違うって……?」

ちなつ「結衣先輩のことじゃないの」


62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:00:23.89 ID:woe061hZ0



私今日ね、とってもだめなことしちゃったんだ。




63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:04:42.12 ID:woe061hZ0


とってもだめなこと。
それがなにかと訊ねる前に、私は何も言えなくなった。
ちなつちゃんの首筋にある何かを見て、ちなつちゃんの言うだめなことを悟ってしまったから。

あかり「……」

ちなつ「軽蔑、した?」

ちなつちゃんは横に顔を向けたまま、問うてきた。
私は小さく首を振る。ちなつちゃんに見えていないことをわかっていながら、黙って首を振っただけだった。
軽蔑なんてするはずもない、けれどただ、悲しかった。それでよくわからなくなっていたから。


64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:10:28.40 ID:woe061hZ0

ちなつ「……」

あかり「……」

ちなつちゃんは身動き一つ、しなかった。
私も指一本、動かすことなんてできなくて。

お互いの息遣いだけに耳を澄ます。

あかり「……ちなつちゃんは」

ちなつ「うん」

沈黙に耐え切れなくなったわけではなかった。
私はふと浮かんだ言葉を、口にした。

あかり「ちなつちゃんは、それで、結衣ちゃんのこと忘れられたの」


65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:14:48.41 ID:woe061hZ0

思ったよりも冷たく響いた声。
ちなつちゃんは何も言わなかった。
それで私は、「へんなこと聞いちゃってごめんね」そう言い掛けて。

ちなつ「忘れられたよ」

あかり「……え?」

ちなつ「結衣先輩のことは、忘れたよ。前にも言ったじゃん、もう片思いはやめるんだって」

あかり「……それは、そうだけど」

ちなつ「もう、結衣先輩のことは好きじゃないから」

あまりにきっぱりした声だった。
その声のまま、ちなつちゃんは続けた。

ちなつ「強いて言えば忘れられなかったのはきっと、恋することなのかなって」


66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:19:50.85 ID:woe061hZ0

だから誰彼構わず好きになった振りして付き合って。
きっとほんとに好きだったんだと思うけど。結衣先輩のときと違って、本気になれなかっただけで。あんな恋が出来ればもっと楽しい高校生活送れるはずなのにね。

私、そんなつまんないことで汚れちゃった。

ちなつちゃんは吐き出すように、それでいてとてつもなく苦しそうに、辛そうに、そう言った。
私はただ、ちなつちゃんの声を聞いていることしかできなかった。

ちなつ「まるで恋愛中毒だよね」

自嘲気味に笑ったちなつちゃん。
私の中で、何かが崩れた気がした。


67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:26:39.77 ID:woe061hZ0

きっとこれは、ちなつちゃんを救いたいからとか、そういうわけじゃない。
自分のための言葉。

あかり「それならあかりに恋してよ!」

ちなつちゃんが「え?」と私を見た。
構わずに、続ける。

あかりはずっとちなつちゃんを見てたんだよ。
ちなつちゃんのこと、ずっとずっと好きだったんだよ。
どうしてちなつちゃんは、あかりだけ選んでくれなかったの?

ちなつちゃんが汚れてるとか、そんなの関係ない。
私はちなつちゃんのこんな疲れたように笑うちなつちゃんなんか見たくない。
後悔したように、今にも泣き出しそうに話すちなつちゃんなんて、私は知らない。


68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:36:00.80 ID:woe061hZ0

ちなつちゃんが私のことをなんとも思っていなくたって、私はちなつちゃんの一番近くにいたかった。誰よりも近くで笑っていたかった。
今だってそれは変わっていなかった。

ちなつちゃんの気持ちを、私は知らない。
知らない振りをする。

あかり「あかりに恋すれば、ちなつちゃんだってきっと楽になれるもん!」

こんな言い方をしてまで、ちなつちゃんに好きになってもらおうとするなんて。
けれど、今までの自分のため。
――それからきっと、ちなつちゃんのため。


69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:41:03.58 ID:woe061hZ0

部屋は、もうすっかり暗い。
電気もつけていない部屋。けれどちなつちゃんが泣いているのがわかった。
どうして泣いているのかは、私にはよくわからなかったけど。

ちなつ「……あかりちゃんはさ、ほんとに優しいんだね、知ってたけど」

あかり「優しいわけじゃないよ。あかりは悪い子だもん」

学校をサボって、嫉妬して。
それで今、ちなつちゃんを困らせるようなことを言っている。
けれどちなつちゃんは「優しいよ」
そう言って、そっと私のほうに身体を向けてきた。

暗い中、ようやく目が合う。


70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:44:58.75 ID:woe061hZ0

ずっと言えなかった言葉を声にして、私の心は空っぽになったみたいだった。
それでいて、しんと静かで。

いつか結衣ちゃんと京子ちゃんみたいに離れ離れになってしまうかもしれない。
そうでなくたって、もうちなつちゃんとは遠いままなのかもしれない。
けれど、それでも私は今ちなつちゃんの傍にいたかったから。ちなつちゃんのいつもの笑顔を、見ていたかったから。

あかり「……えへへ」

意味もなく、笑った。
ちなつちゃんも小さく笑うと。


72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/19(土) 23:49:56.74 ID:woe061hZ0

ちなつ「あかりちゃん、さっきあかりに恋してよって言ったけど」

あかり「うん」

ちなつ「今のから始まる恋でもいいの?」

それはきっと、これまでと変わらず本気じゃない気持ちなのかもしれないけど。
ちなつちゃんが少しでも安心してくれるのなら。
少しでも、楽になれるなら。傷付かずに済むのなら。

あかり「うん、いいよ」

私は笑った。
ちなつちゃんは小さく、「ありがと」と呟いた。



終わり


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