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櫻子「向日葵なんて、だいっきらい!」 向日葵「……………………」

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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:26:13.88 ID:iiAhi9rKo




      『きらいじゃないもん』





3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:27:06.43 ID:iiAhi9rKo

「向日葵ー、宿題教えてー」

「今、違うところやってるのですけど……」

 いつもの風景。

 日曜日、向日葵の部屋に上がり込んできた櫻子は、きっちり夕食までお呼ばれした後でそんなことを言い出した。

 向日葵にとっては、櫻子が昼寝をしている間に既に済ませた宿題なので、面倒くさいことこの上ない。


4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:27:46.78 ID:iiAhi9rKo

 せめてもっと早く言ってくれれば、ついでに教えられるのにと思いつつも、先ほど片付けたノートをもう一度取り出す。

「そこは、こっちの公式ですわ」

「え、どれ?」

「教科書くらい開きなさい」

 言いながらもついつい、自分の教科書を見せてしまう。

 念のため、公式の使い方まで説明しておく。


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:28:40.90 ID:iiAhi9rKo

「わかりました?」

「わかった! で、答えは?」

「少しは自分でやろうという気はありませんの!?」

 これ以上は、ノートを写させるのとなにも変わらない。

 提出ギリギリで時間がないのならばともかく、まだ時間が残っているのにそこまでするのは、櫻子のためにもならない。


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:29:29.87 ID:iiAhi9rKo

「ほら、わからなくなったら教えますから、自分でやりなさいな」

「ちぇー、ケチ」

「なんとでも言いなさい」

「おっぱいケチ」

「胸は関係ないでしょう!?」


7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:30:14.10 ID:iiAhi9rKo

 意味はわからないが、とりあえず胸に絡めて文句が言いたいだけである。

 教えてもらっておいてこの態度なのだから、向日葵は怒って当然なのだが、いちいちこれでキレていては櫻子の幼馴染は務まらない。

 とりあえず公式の使い方は理解していることを確認すると、再び自分の勉強に戻ることにした。


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:30:57.30 ID:iiAhi9rKo

「向日葵まだ宿題やってんの? っていうか、そんなに宿題あったっけ?」

「これは復習ですわ」

「宿題でもないの復習とか、優等生か!」

「あなたに比べれば誰でも優等生ですわ」


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:31:23.83 ID:iiAhi9rKo

 実際のところ、生徒会活動や家事で忙しい向日葵が、塾に通ったりする暇はない。

 それで成績を保とうとすれば、こうして余暇に自主的な勉強をしておくことも必要なのだ。

 と、向日葵は思っているのだが、櫻子にとって予習復習などというのは良い子ぶったやつのすることでしかない。


10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:31:55.48 ID:iiAhi9rKo

「向日葵め……勉強でアピールして副会長目指すとか卑怯だろ!」

「それのどこが卑怯ですの! というか、当たり前のことでしょう?」

 第一、生徒会役員選挙は投票制なので、成績の優劣は特に問われない。

 もしも関係あるのだとしたら、櫻子は確実に負けるだろう。


11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:32:53.63 ID:iiAhi9rKo

「ムカつくー! 他は私が全部勝ってるのにー!」

「その自信がどこから湧いてくるのか教えてほしいですわ」

 大言壮語もいいところだが、櫻子は本気である。

 しかも割と普段から同じことを言っているので、向日葵も呆れこそすれ、反論はしない。


12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:33:34.48 ID:iiAhi9rKo

「それより、とにかく自分の宿題を進めなさいよ。こっちはもうすぐ終わりですわ」

「うーん……めんどくさい……やる気しねー」

 ぶつぶつ言いながら明らかに集中できていない櫻子に、向日葵はぼそっと言った。

「……私より先に終わったら、クッキー焼きますわよ」

「任せろー!」


13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:34:11.49 ID:iiAhi9rKo

 途端に背筋を伸ばして、てきぱきと問題を解き始める。

 わかりやすいにもほどがあるが、それでやる気が出るなら、それでもいい。

 それから櫻子は無駄口もきかずに一気に宿題を片付け、向日葵もそれを確認してからノートを閉じたのだった。


14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:35:10.78 ID:iiAhi9rKo

「クッキーうめー!」

 焼き立てのクッキーを頬張り、満面の笑みを浮かべる櫻子。

 どう見積もっても等分以上に櫻子が食べてしまったが、自分がつくったものを美味しそうに食べてもらうのを見て悪い気はしない。


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:35:43.40 ID:iiAhi9rKo

「それ食べたら、もう帰りなさいよ」

 手早くつくったとはいえ、既に夜の十時を過ぎている。

 今すぐ寝るような時間でないとはいえ、そろそろお風呂に入りたいところである。


16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:36:13.95 ID:iiAhi9rKo

「えー、寝るには早いだろ。夜はまだこれからじゃん」

「ぐーたらしてた櫻子と違って、疲れてるんですの」

「早寝早起きとか、年寄りか!」

「殴りますわよ」

「そんな生活してるからおっぱいばっか大きくなるんだな」

「関係ありませんわよ!」

 向日葵はそう言い返してから、ためらいがちに小さく「……多分」と付け加えた。


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:37:30.75 ID:iiAhi9rKo

「そうか、早寝早起きが成長のカギ! となれば私も早く帰って寝る!」

「はいはい、おやすみなさい」

 ようやく一息つけそうだと思って適当に流した向日葵に、勢いよく立ち上がった櫻子が言った。


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:38:15.57 ID:iiAhi9rKo

「向日葵!」

「なんですの?」

「向日葵のおっぱいはへこめ!」



 二階の窓から放り出そうとした向日葵の手から、櫻子は全力で逃げ出した。


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:39:05.89 ID:iiAhi9rKo




「……ということがありましたの」

「た、大変だね」

 翌日の学校。

 向日葵は、あかりやちなつに、昨日のことを愚痴っていた。

 というのも、昨日は宿題や櫻子を(物理的にも)片付けて、それなりにすっきりした気分で床に着いたのだが、今日学校に来てみれば、櫻子はせっかく済ませた宿題を家に忘れてきていたのだった。

 昨日の努力はなんだったのかと、呆れ返るばかりである。


20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:39:45.57 ID:iiAhi9rKo

「櫻子のバカはどうにもなりませんわ。今日だって、忘れ物はないか確認しましたのに」

 そうしたら、はっきりと「ない」と答えたのである。

「ちゃんと自分の目で見て確認すべきでしたわ……」

「向日葵ちゃん、櫻子ちゃんのお母さんみたい」

「なっ!?」

 あははは、と笑いながら言ったあかりの言葉に、向日葵は心外そうな顔をする。


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:40:34.53 ID:iiAhi9rKo

「あんなおバカな子の母親なんてまっぴらごめんですわ! 幼馴染っていうだけでも大変なのに……」

「でも向日葵ちゃんの甲斐甲斐しさ見てると」

 ちなつが、さらりと言う。

「お母さんとか幼馴染っていうか、若奥様って感じ?」

「おくさ……っ!?」


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:41:19.91 ID:iiAhi9rKo

 一瞬絶句した向日葵が、先ほどとは比べ物にならない勢いで反論する。

「あ、ありえませんわ! 私が櫻子の奥様なんてそんな、確かにあの子は誰かがついていないと不安で仕方ありませんし私は付き合いが長いから櫻子のこともそれなりに知ってはいますけれどっ!!」

 はたして反論になっているのか。

 途中から完全に論点が変わっている。


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:42:15.20 ID:iiAhi9rKo

「だって、櫻子ちゃんも、そこまでわがまま言うのって向日葵ちゃんにだけだし」

「あかりたちにとっては、面白いお友達だよねぇ」

 確かに向日葵も、櫻子が自分に言うほど他人に無茶を言っているのは見たことがない。

「でも、それは……櫻子が私に慣れているというだけで……」

「そうかなぁ?」

 急にトーンダウンする向日葵の反論。


24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:43:16.79 ID:iiAhi9rKo

 対照的に、ちなつのテンションは上がる。

「だって私なら、好きな人にはちょっとわがまま言ったり言われたりしてみたいし! あ~ん結衣先輩~! 私にはなーんでも言ってください~!」

 そう言いながら悶えるちなつ。

 友人の唐突な変貌に若干引きつつも、あかりは頷いた。

「あかりも、仲のいい子にはちょっとだけ頼っちゃうなぁ。櫻子ちゃんも、きっとそうだよ」

「そ、そうかしら……」


25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:44:16.44 ID:iiAhi9rKo

 あまりにもいつものこと過ぎて意識したことはないが、櫻子の自分に対する態度が特別だというのは、確かにそう思った。

 他の人とは、付き合いの長さが違うし──────と、そこまで考えて気づく。

「そ、それと若奥様は全然関係ありませんわっ!」

「えぇっ! あかりは別にそんなこと言ってないよ!」

 食ってかかる相手を完全に間違えている。

 が、そうすべき相手は現在進行形でトリップ状態だ。


26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:44:51.26 ID:iiAhi9rKo

「あぁ、結衣先輩……私の一生で一度だけのわがまま、聞いてくれますか……!?」

「ちなつちゃん……それはせめて結衣ちゃんの前で言おうよ……」

 完全に矛先を失った向日葵の恥ずかしさといらだち。

 そんなタイミングで、


27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:45:41.60 ID:iiAhi9rKo

「先生の手伝い終わったー!」

 宿題を忘れた罰として、手伝いをやらされていた櫻子が戻ってきた。

 そのまま向日葵たちの傍にやってきて、ひとり妄想の世界に突入しているちなつに気付く。


28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:46:21.29 ID:iiAhi9rKo

「どしたの、ちなつちゃん……」

「えっと、ちなつちゃんが、向日葵ちゃんのことを若奥様って──────」

 律義に一から説明しようとするあかりに、向日葵が反射的に動いた。

「櫻子のバカ!!」

「ごふぅっ!?」

 ……ただし、櫻子に対して。


29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:47:01.03 ID:iiAhi9rKo

「な……なぜだ……」

 ボディーブローを食らって床に沈む櫻子。

 強引なやり方とはいえ、とりあえず櫻子にさっきの会話を聞かれずに済んだので、向日葵は一安心である。


30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:47:43.87 ID:iiAhi9rKo

(でも)

 心の奥底に、小さな疑問が芽生える。

(わざわざ櫻子のわがままに付き合ってる私は、一体なんですの……?)

 頭で考えてみても、「幼馴染だから、いつものことだから」という答えしか出てこない。

 だけど心のほうは、なぜだかもやもやとして晴れないのだ。


31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:48:22.55 ID:iiAhi9rKo

「……なにもかも櫻子のせいですわ!」

「ひでぇ……」

 理不尽極まりない追い打ちに、床にうずくまったままの櫻子がうめいた。


32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:48:55.44 ID:iiAhi9rKo

「……あかり、こんなときどうすればいいのかなぁ」
 もう一人、途中で忘れ去られた状態のあかりもまた、切ない悩みを抱えることになったのだった。


33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:49:32.81 ID:iiAhi9rKo




 時間は下って、放課後。

 向日葵は何事か悩みでもあるようで上の空だったため、櫻子はひとりで教室を出た。

「いきなり殴るし、話しかけても返事しないし、わけわかんない!」

 櫻子にしてみれば、向日葵がなにを考えているのかさっぱりわからない。

 暴力沙汰に及ぶこと自体はいつものことだし、その原因のほとんどが自分自身にあるという自覚くらいは櫻子にもあるのだが、意味もわからず殴られて、しかも無視されるというのは気分のいいことではない。


34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:50:30.50 ID:iiAhi9rKo

(向日葵のやつ……せっかく私が話しかけてやってるのに。ちゃんと相手しろよー!)

 他の相手であれば、どれだけ傲慢なのかと思われても仕方ない。

 しかし、こと向日葵が相手であれば、別だ。

「調子乗るんじゃありませんわよ」とか色々言うだろうが、向日葵は最終的には自分の意を酌んでくれる。

 それは推測ではなく、確信だった。


35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:51:45.73 ID:iiAhi9rKo

 向日葵も向日葵で、そうしたやり取りを当たり前のこととして受け入れている。

 それが二人のありのままの関係なのだ。

 だからこそ、そこになにかしら歪みが生じると、唐突に違和感が湧く。

(なんだよもー! 向日葵のくせに私のことイライラさせるとか、ありえないし!)

 当たり前のことが、当たり前にいかない。

 それは二人にとって、大きなストレスだった。


36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:52:23.33 ID:iiAhi9rKo

(なんだかわかんないけど、イライラする!)

(よくわかりませんけど、イライラしますわ!)



 発端はとても小さなこと。

 ただお互いの“当たり前”に付いた、小さな疑問符。

 そんな、きっかけとすら呼べない些細なことから、すれ違いは起こるのだ。


37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:53:07.01 ID:iiAhi9rKo




 次の日になると、向日葵の様子はいつもどおりに戻っていた。

「櫻子! いつまで支度してますの? 早くしないと学校に遅れますわよ!」

「うっさいなー。今、靴履いてるとこだって」


38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:53:54.98 ID:iiAhi9rKo

 いつもの風景。

 一晩という時間は、小さなしこりを忘れさせるには十分な時間だった。

 櫻子も向日葵も、既に昨日のことなど覚えていないかのように、当たり前の朝を迎える。

 少々の諍いなどよくあることだ。

 それを全部根に持っていたら、この二人の関係はここまで続いていないだろう。


39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:54:32.76 ID:iiAhi9rKo

 だから忘れた。

 ──────いや、忘れたつもりになっていた。

 しかし、土に蒔いた種がいつか芽吹くように、このときはただ心の中に埋もれていただけだったのだ。



 だから櫻子は、この日、決定的な一言を発してしまう。


40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:55:11.98 ID:iiAhi9rKo




 その日の生徒会は、綾乃と千歳が校内での仕事のため、櫻子と向日葵の二人で書類仕事を片付けることになった。

 綾乃たちとしても、この二人は張り合うように仕事をこなすので、一緒にしておくのがベストだということを理解していた。

 が、今日に限っては、それが裏目に出てしまうことになる。


41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:55:49.97 ID:iiAhi9rKo

「はーっ、終わったー!」

「こっちも終わりですわ」

 二人はほぼ同時に担当分の仕事を片付け、書類を積み上げた。

「私のほうが多いっ!」

「むむっ……」

 二人の書類の山を並べると、確かに若干だが、櫻子のほうが多いように見える。


42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:56:41.23 ID:iiAhi9rKo

「ほ、本当にちゃんとできてますの?」

「なんだよー、疑うのか!?」

 なにか相手に失点がないかと、櫻子の書類を確認する向日葵。

 そこまでは、いつものことだったが。


43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:57:30.50 ID:iiAhi9rKo

「って櫻子、本当にミスしてますわよ」

「えー!?」

 そんなはずはない、と向日葵から書類を引ったくり、目を皿のようにして見直す櫻子。

「ほら、合ってるじゃん!」

「あなたなにを聞いてましたの? ほら、ここ……」

「合ってるって!」


44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:58:05.06 ID:iiAhi9rKo

 お互いに自分の記憶を頼りに正しさを主張しているので、噛み合わない。

 もちろん、どちらが正しいのかは、綾乃に確認してみるまでわからないのだが。

「人の仕事にケチつけてまで勝ちたいのか!」

「なっ……人聞きの悪いこと言わないでくださる!? 私は櫻子のためにと思って……」


45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:58:38.06 ID:iiAhi9rKo

 ──────普段の向日葵ならば、後半を口にすることはなかっただろう。

 仮に本心からそう思っていたとしても、別に恩に着せるつもりなどないのだから。

 しかし、何気なく付け加えてしまった言葉に、櫻子は敏感に反応した。


46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/25(日) 23:59:18.73 ID:iiAhi9rKo

「私のためとか、余計なお世話だ! 別に頼んでないし!」

「なんですって!? いつも私に頼りっぱなしなのは誰だと思ってますの!」

 別にこだわるつもりなんてなかったのに、一度触れられると、反論せずにはいられない。

 そうすると余計にきつい物言いになってしまうのだから、完全に悪循環だった。


47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:00:58.92 ID:i7zt0Yjwo

「じゃあいいもん、もう向日葵になんて頼らない!」

「言いましたわね? だったら宿題も教えませんから、今後は自分でちゃんとしなさい!」

「できるもん! 今までやらなかっただけだし!」

「そんなこと言ってる人間ができた試しがありませんわ!」

 ここで櫻子が爆発して、手を出していればいつもの喧嘩で済んだはずだった。

 しかし、ボルテージが上がる中で浮かんできたのは、忘れたはずの昨日の出来事。


48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:01:47.90 ID:i7zt0Yjwo

「っていうか向日葵、昨日私のこと無視したでしょ! なんなのあれ!」

「無視? 私がいつ櫻子のことを無視しましたの?」

「したじゃん! 放課後声かけてもこっち向きもしなかったじゃんか!!」

「覚えてませんわ。櫻子の声が小さかったんじゃなくて!?」


49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:02:21.74 ID:i7zt0Yjwo

 頬がかっと熱くなる。

 もう本当に無視していたのか、それとも聞こえていなかっただけなのかなど、関係ない。

 今、この向日葵の態度が許せなかった。


50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:03:09.45 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵~っ! なんだよその態度! 私の相手するのは向日葵の義務だろ!」

 もし冷静な状態で聞けば、櫻子が言いたいことも伝わっていたかもしれない。

 ただ相手をしてほしいのだという、いつもの櫻子の訴えでしかなかったのだから。

 しかし、今の向日葵もまた、そうしたことに気づく余裕を失っていた。


51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:03:56.26 ID:i7zt0Yjwo

「私は、櫻子が頼むから仕方なく付き合ってあげてるんですのよ! そうじゃなきゃ、櫻子の相手なんてしませんわ!」

 伸ばした手を振り払われるように。

 それは櫻子にとっては、衝撃的な拒絶の言葉だった。

 よく聞けば、そんなのはいつもの口喧嘩で出てくる台詞だ。

 意地を張り合って、素直になれない二人が、よく口にする言葉。


52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:04:37.36 ID:i7zt0Yjwo

 だけど、このときだけは。

「ひ……向日葵の、バカあああぁぁぁ!!」

 それを、受け止めることができずに、


53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:05:15.81 ID:i7zt0Yjwo




「向日葵なんて、だいっきらい!!」


.


54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:05:47.29 ID:i7zt0Yjwo

「──────!!」

 その言葉を、口にしてしまった。


55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:06:25.80 ID:i7zt0Yjwo

 喉が痛くなるほど大声で叫んでから、櫻子ははっと我に返った。

 向日葵を見る。

 その顔に浮かぶのは、先ほどまでの怒りやいらだちではなかった。

 ただそこだけを切り取ってみれば、あっけに取られた表情と言えただろう。


56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:07:13.23 ID:i7zt0Yjwo

 しかし、そこからは大事なものが抜け落ちてしまっていた。

 櫻子は、その大事なものがなんなのかを知っている。

 だが、それを理解することはできなかった。

 ただ、


57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:07:43.67 ID:i7zt0Yjwo

「きら、い……?」



 向日葵の瞳から涙が一滴零れ落ちるのを見て──────自分が取り返しのつかないことを口にしたことに気づいた。


58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:08:22.82 ID:i7zt0Yjwo

「あ……」

 向日葵は責めない。

 なにも言わない。

「う……ぁ……っ!」

 気づけば櫻子は走り出していた。


59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:08:49.27 ID:i7zt0Yjwo

 生徒会室を飛び出して、闇雲に校舎を走る。

「あうっ!」

 足がもつれて、前のめりに転ぶ。

 思い切り擦った膝が、痛む。

 でも、そんなことがどうでもいいくらい、櫻子は動揺していた。


60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:09:23.62 ID:i7zt0Yjwo

 気づいてしまったのだ。

 自分が、言ってはいけないことを口にしたことに。



 初めて、向日葵に「嫌い」と言ってしまったことに。


61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:10:20.98 ID:i7zt0Yjwo




 翌朝の学校。

 あかりは、櫻子がいつもよりも早く、それも独りで登校してきたことに驚いた。

「あれ、櫻子ちゃん早いね?」

「うん……」


62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:10:48.74 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵ちゃんは?」

「……………………」

 尋ねられた櫻子は、それには答えようとせず、自分の席に着くと俯いたまま黙り込んだ。

「櫻子ちゃん……?」

 具合でも悪いのだろうか、とあかりが不安になったとき、向日葵も教室に入ってきた。


63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:11:21.63 ID:i7zt0Yjwo

「あ、向日葵ちゃんおはよう」

「おはようございます」

「あのね、なんか櫻子ちゃんが……」

 あかりが話しかけているにも関わらず、挨拶だけした向日葵は、櫻子と同じように自分の席に着いて、黙り込んだ。

 櫻子も向日葵も、顔を合わせようともしない。


64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:11:49.61 ID:i7zt0Yjwo

(あ、あれ……? どうしたのかな……?)

 明らかにいつもと違う空気が、二人の間に流れている。

 いや、流れなどなく、隣同士のはずの二人の席の間には、見えない壁でもあるかのようだった。

「……………………」

「……………………」


65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:12:33.11 ID:i7zt0Yjwo

 あかりの目から見て、櫻子は明らかに落ち込んでいる。

 向日葵は落ち着いているように見えたが、教室に入ってきたときからずっと、生気が抜けたような顔をしていた。

 昨日、教室を出るときまではいつもと変わらない二人だったのに。

 授業が始まっても同じ様子の二人に、不安がかき立てられる。

 昼休みになると、同じく二人の様子に戸惑っている様子のちなつに断ってから、あかりは二年生の教室へと向かった。


66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:13:44.81 ID:i7zt0Yjwo

「大室さんと、古谷さんが?」

「はい。池田先輩、なにか知りませんか?」

 あかりが最初に訪ねたのは、千歳のところだった。

 昨日の放課後以降になにかがあったとすると、生徒会役員の千歳はなにか知っているかもしれない。

 個人的な面識もあるので、相談しやすかったというのもあるだろう。


67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:14:30.01 ID:i7zt0Yjwo

「うーん……実はうちと綾乃ちゃん、昨日は生徒会室におらんかったから」

「そうなんですか……」

「あ、でも、二人に仕事頼んでから部屋出たんやけどな」

 しかし、そのときの様子はいつもと変わりなかったことを覚えている。

 それに、確認のために仕事上がりに生徒会室に寄ったときには、頼んだ仕事を終えて書類が提出されていた。


68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:15:23.07 ID:i7zt0Yjwo

「まあ、そのときには二人はもうおらへんかったんやけど」

「うーん……」

 千歳によれば、綾乃もずっと一緒に行動していたので、これ以上のことを知っている可能性は低いという。

 一番なにか知っている可能性が高い二人が消えて、あかりは困り果てた。


69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:15:55.52 ID:i7zt0Yjwo

 そもそも、櫻子と向日葵は常に一緒に行動しているので、いつどこでなにが起こったか、特定しづらいのだ。

 とにかく生徒会の仕事を終えてからの二人の足跡を追うしかないのだが、この時点であかりには手詰まりに近かった。

 が、意外なところから目撃情報が寄せられる。

「昨日ひまっちゃんが独りで歩いてるとこ見たよー」

 それは、ただ相談のつもりで話したつもりの、京子からだった。


70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:16:33.94 ID:i7zt0Yjwo

「え、いつ?」

「部活終わってからだから、夕方だよ」

 あかりも昨日の部活には顔を出していたので、その後となるとそれなりに遅い時間だったことがわかる。

 確か、日暮れも近かったはずだ。


71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:17:12.17 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵ちゃんが、独りで歩いてたんだよね?」

「うん。声かけたんだけど、気づいてないみたいでそのまま帰ってっちゃったけど」

 そのときの様子を尋ねると、やはり今日の向日葵のように、ぼんやりとした感じだったという。

 そうなると、時間はほぼ特定できたと言える。

 放課後、生徒会の仕事を終えてから学校を出るまでの間に、二人になにかがあったのだ。


72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:18:09.13 ID:i7zt0Yjwo

「喧嘩したんじゃない?」

「あかりもそう思ったんだけど……二人とも、いつもすっごく仲いいから」

 本人たちは決して認めないだろうが、あかりにすれば、櫻子と向日葵の仲の良さは絶対的なものに見えた。

 それに及びそうな間柄というと、あかりが知る中では京子と結衣くらいのものだ。


73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:18:56.44 ID:i7zt0Yjwo

「んー」

 その京子は、珍しく真面目な顔をして考え込んでいる。

「あかりってさ」

「うん?」

「友達にも絶対に言われたくないこととかある?」

「え、うーん」

 質問の意図はわからないが、首を捻って考えるあかり。


74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:19:27.28 ID:i7zt0Yjwo

「あかりは……“きらい”って言われたら傷つくなぁ。泣いちゃうかも」

「そっか」

 きらい、と自分の口で反復してから、京子は頷いた。


75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:19:57.91 ID:i7zt0Yjwo

「私も結衣も、それは言ったことないなあ」

「京子ちゃんと結衣ちゃんも仲いいもんね」

「やっぱそこかなあ」

「なにが?」

「そんなに傷つきそうなことって」


76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:20:36.07 ID:i7zt0Yjwo

 それは京子なりの推理だった。

 最も仲のいい相手に、されたり言われたりしたら、最も傷つくこと。

 それも、僅かな時間で、決定的な亀裂を生むようなこと。

 状況から考えた独自の考察ではあったが、それはほぼ完全な正解だった。

 京子自身にとっては、それほど難しいことではなかった。

 ただ、自分が結衣に言われたら一番嫌だと思った言葉を考えただけのことである。


77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:21:16.76 ID:i7zt0Yjwo

「どうしよう、どうしたら仲直りできると思う?」

「私もあの二人のことはそんなに詳しく知らないしなー……とりあえず、話聴いてあげたら?」

 自分ならとりあえずラムレーズンだな、と京子は思ったが、奇跡的にまともなアドバイスが口から出てきた。


78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:21:53.63 ID:i7zt0Yjwo

「うん、それじゃ、櫻子ちゃんか向日葵ちゃんに話聴いてみるね」

「がんばれー。私も結衣とか綾乃に相談してみるー」

「ありがとう京子ちゃん。またね」

 礼を言ったところで、予鈴のチャイムが鳴った。

 どうやら話を聴けるのは、放課後になりそうだ。


79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:22:23.58 ID:i7zt0Yjwo




 いつもの倍くらいの長さに感じた午後の授業が終わり、放課後が訪れる。

 櫻子と向日葵の、どちらに話しかけようかと思っていたあかりは、少しだけ出遅れた。

 櫻子はかばんを掴むと、飛び出すように教室を出ていく。


80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:22:54.84 ID:i7zt0Yjwo

「あ、櫻子ちゃん!」

「ごめん、用事あるから!」

 振り返ることもなく、あっという間にその背は見えなくなってしまった。

 必然的に、話を聴けるのは残された向日葵だけになった。

 幸い、というべきなのか、向日葵は朝と変わらない様子で、ぽつんと席に座っている。


81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:23:37.11 ID:i7zt0Yjwo

「ねえ、向日葵ちゃん……お話、いいかな?」

「……………………」

 長い間を置いた後、向日葵は小さく頷いた。

 それでも、目を合わせようとはしなかったが。


82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:24:05.36 ID:i7zt0Yjwo

 教室では話しづらいだろうと思い、ひとまず場所を移すことにする。

「どうしよう、学校じゃないほうがいいかな。あかりの家、来る?」

「……そう、ですわね」

 しっかり者の向日葵とは思えない、弱々しい声。


83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:24:44.95 ID:i7zt0Yjwo

 普段の様子を知るあかりには、それがとても痛々しく思えてならなかった。

(よし、絶対向日葵ちゃんたちの力になるぞ!)

 改めてそう決意したあかりは、向日葵を先導して自宅へと向かう。


84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:25:24.60 ID:i7zt0Yjwo

「着いたよ。いらっしゃい」

「お邪魔しますわ」

 あかりに続いて玄関で靴を脱ぐ向日葵。

 それをきちんと隅にそろえ、さらに──────


85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:25:53.16 ID:i7zt0Yjwo

「あ……」

「?」

 戸惑うように、その手を戻す。

 あかりにはその仕草の意味はわからなかった。



 ただ彼女にとっては、“もう一人分”の靴をそろえるのが当たり前だったという、それだけのことだ。


86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:26:26.85 ID:i7zt0Yjwo

「えっと、お茶でいい?」

「いえ、お構いなく……」

 とは言ったが、あかりはちゃんと二人分のお茶を用意した。

「それでね」

 あかりは座布団の上に座ると、前振りもなく話し始めた。


87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:26:56.83 ID:i7zt0Yjwo

「櫻子ちゃんと、仲直りしようよ」

 理由も原因も過程もわからないが、二人が喧嘩したことだけは、やっぱり確かだと思ったから。

 あかりは、ただそれだけを言った。


88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:27:25.51 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵ちゃんも、このままじゃ嫌でしょ?」

「そう……ですけど……」

 向日葵の様子を見ていても、櫻子のことが憎くてこんなことをしているようには思えなかった。

 きっと仲直りをしようという気持ちはあるのだと、あかりは確信していた。


89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:28:15.85 ID:i7zt0Yjwo

「喧嘩をしちゃったのは仕方ないけど、ずっとそのままは良くないよ!」

「それは、わかってますの。わかってますけど……」

 向日葵にも、昨日は言い過ぎたという後悔の念はあった。

 いつもの喧嘩なら、素直にとはいかずとも、仲直りを切り出すこともできただろう。

 でも、今回だけは違った。

 ただあの一言が──────“きらい”という一言だけが、向日葵の心を締め付けていた。


90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:28:54.90 ID:i7zt0Yjwo

「もし……もし本当に嫌われてるんだったら……私、どうしたらいいか……!」

「そ、そんなことないよ! 櫻子ちゃんが、向日葵ちゃんのこと嫌いなはずなんてない!」

 だって、櫻子もまた、向日葵と同じように後悔しているはずなのだ。

 授業中も櫻子のことを横目に見ていたあかりは知っている。

 ずっと視線を机に落としていた櫻子が、ときおりちらちらと向日葵の様子を窺っていたことを。


91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:29:25.42 ID:i7zt0Yjwo

 そんな風に気にかけているのだから、これは本当は、ただのいつもの喧嘩にすぎないのだ。

 しかし、二人ともが既に気づいてしまっている。

 あの言葉は、謝るとか許すとか、そんなことでは撤回できないものだと。

 どんなことをしても揺らぐことのなかった二人の絆に、ヒビを入れてしまったことを。


92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:30:07.58 ID:i7zt0Yjwo

「知ってますわ……櫻子があんなこと、本気で言うはずないってことくらい」

「そうだよ、だって櫻子ちゃんだもん!」

 京子に似て突飛なところはあるものの、決して悪い子ではない。

 口は悪いかもしれないが、悪意はない。

 ただ総じて、素直なことが言えないだけなのだ。


93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:30:53.69 ID:i7zt0Yjwo

「きっと、思いついたことをとっさに言っちゃっただけだよ。だから、大丈夫、ね?」

「……駄目。やっぱり、無理ですわ」

「そんなぁ!」

「だって……!」

 向日葵の手が、胸のあたりを押さえる。

「うそだって、わかってるのに……それでも、こんなに苦しくなるんです……!」


94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:31:21.98 ID:i7zt0Yjwo

「ひ、向日葵ちゃん……」

「もしも、万が一でも……同じこと言われたら、私、もうどうしたら……どうしたら……!」

 それまで押さえつけていた感情が決壊したように、表情がくしゃっと歪む。

 大粒の涙がぽろぽろと零れだして、嗚咽でもうその後は言葉にできなかった。


95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:31:48.85 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵ちゃん……そんなに悲しかったんだね……」

 あかりの目にも、じわりと涙がにじむ。

 向日葵の傍に座ると、その背を慰めるように優しく撫でた。

「大丈夫だよ。あかり、櫻子ちゃんとも話してみるから」

 向日葵の不安を払拭するには、櫻子の気持ちを確認しなければならない。

 今日は逃げられてしまったが、次は絶対に話をする機会をつくるのだ。


96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:32:22.06 ID:i7zt0Yjwo

「だから待ってて。あかり、がんばるから」

 その言葉も、背をさするてのひらも、この上なく優しく、そして頼もしく思えた。

 その温かさに後押しされるように、向日葵はようやく一言だけ口にすることができた。

「ありがとう……」

 あかりが友達でいてくれて本当に良かったと、心の底から思った。


97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:33:11.21 ID:i7zt0Yjwo




 さらに次の日。

 昼休みになった途端教室から逃げ出そうとした櫻子は、廊下の前に立ちふさがるあかりに阻まれた。

「ちょ、ちょっとあかりちゃん!」

「ダメだよ、お話聴かせてくれるまであかり退かない!」


98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:33:41.12 ID:i7zt0Yjwo

 ならばと後ろを振り返ると、そこにはちなつが待ち構えていた。

「こっちも通さないから!」

「櫻子ちゃん!」

 前後から挟まれて、逃げ場を失う櫻子。


99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:34:13.02 ID:i7zt0Yjwo

「ず、ずるい……なんで私だけ……」

「だって櫻子ちゃん、逃げちゃうんだもん」

 観念した櫻子の手を取ると、あかりは引きずるようにして歩き出した。

「待ってってば! ちゃんと歩くから!」

 しかし、あかりは櫻子の手を掴んで離さない。

 何度も逃げようとしたから怒っているのかと櫻子は思ったが、それは珍しい、あかりなりの絶対の意志の表れなのだった。


100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:34:41.97 ID:i7zt0Yjwo

「ここなら誰も邪魔されないよ」

 そう言ってあかりが連れてきたのは、娯楽部の部室だった。

「先輩たちとかは……?」

「もうこのこと話してあるから、今日は来ないよ」

 どうやら櫻子が思ったよりも、ずっと周到に計画が練られていたらしい。


101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:35:09.42 ID:i7zt0Yjwo

 何度か入ったことのある部室内へ通されると、あかりやちなつと向かい合って座らされた。

「櫻子ちゃん」

「う、うん」

 あかりの気迫に押されるように頷く櫻子。

 あかりは、しっかりと櫻子の目を見つめながら、静かに言った。


102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:35:52.79 ID:i7zt0Yjwo

「向日葵ちゃんのこと、嫌い?」

「うっ……」

 その話だということくらいは、予想していた。

 しかし、こうも直球で切り出されるとは思っていなかったのだ。

 だから、返事に詰まる。


103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:36:32.91 ID:i7zt0Yjwo

「……………………」

 あかりは決して急かそうとはしなかった。

 しかし、同時に言い逃れをさせる気もないということが、普段ないくらい引き締めた表情から伝わってくる。

 櫻子は、観念して口を開いた。


104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:37:03.50 ID:i7zt0Yjwo

「別に……きらいじゃない、よ」

「それじゃ、きらいって言っちゃったのはうそなんだよね?」

「うそっていうか、思わず勢いで……」

「本音じゃないんだよね!?」

「う……うん」


105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:37:34.89 ID:i7zt0Yjwo

 それを聞いたあかりは、ようやく表情を緩めた。

「よかったぁ……もし本当に嫌いなんて言われたら、あかり困ったよぉ」

「だ、だって向日葵、私の相手なんてしたくないとか言うんだもん!」

 その櫻子の発言には、あかりやちなつも驚いた。

 少なくとも、向日葵はそんなことを言っていなかったからだ。


106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:38:13.29 ID:i7zt0Yjwo

「でも、それだって櫻子ちゃんと同じで、思わず言っちゃっただけだろうし……」

「そんなの、わかんないよ。向日葵、いっつも面倒くさそうだし」

「う、うーん……」

 なんというか。

 素直じゃない者同士の仲直りというのは、ここまで厄介なのかと若干呆れが交じってきたあかりだった。


107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:38:48.61 ID:i7zt0Yjwo

「でも、だったらずっと向日葵ちゃんとこのままでいいの?」

 あかりが頭を抱えそうになったところで、ちなつが助け舟を出した。

「そ、それは……良くは、ないけど……」

「櫻子ちゃんも困るでしょ?」

「困るけどっ……」


108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:39:15.26 ID:i7zt0Yjwo

 もやもやとして言葉にできないものが、櫻子の胸を支配する。

 謝るとか謝らないとか、単純な話とは違うのだ。

「だって、“きらいって言ったのはうそ”って言ったらさ……!」

「言ったら?」



「そ、それじゃ……私が向日葵のこと本当は好きみたいじゃんか!」


109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:39:44.40 ID:i7zt0Yjwo

「……………………」

 沈黙するあかりとちなつ。

 ひょっとして、こんなことでこの子は悩んでいたんだろうか。

「だから撤回とかできないし、どうしたらいいかわかんないんだもん!」

「えぇー……」


110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:40:17.27 ID:i7zt0Yjwo

 素直に「うそだった、ごめん」という、それだけのことが櫻子にはできないのだ。

 それは多分に余計な思い込みと、気恥ずかしさから来るものだったが、わずかに──────ほんのわずかに、まったく同じ元の鞘には戻れないだろうという予感がしていたのも事実だった。

 覆水盆に還らず。

 一度口にしてしまったことは、たとえその後になって訂正しようとも、以前と同じ状況には戻らない。

 それがつまりどういう結果となるのか、それは櫻子にも理解できていない。


111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:40:45.33 ID:i7zt0Yjwo

「とにかくっ! 向日葵には言えない!」

「櫻子ちゃん……」

 そこからは、話の進展はなかった。

 ただ意地を張っているだけではない。

 櫻子の言葉の端々に、気まずさや、向日葵と同じような怖れが潜んでいることに、あかりは気づき始めた。

 恐らく、このままでは櫻子は絶対に首を縦には振らないだろう。

 そうこうしているうちに昼休みが終わってしまい、説得は一旦諦めるしかなくなったのだった。


112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:41:22.73 ID:i7zt0Yjwo




 自分ひとりでの説得に行き詰まりを感じたあかりは、事情を説明して他の人にも協力を仰ぐことにした。

 以前相談していた千歳と京子のほか、二人を通じて話を聞いたらしい結衣や綾乃もその輪に加わっている。

「……というわけで、困っちゃって」

 あかりがこれまでの経緯を説明すると、一斉にため息が漏れた。


113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:41:49.35 ID:i7zt0Yjwo

「なんというか……」

「古谷さんも大室さんも、素直じゃないわね……」

「あの二人も、綾乃ちゃんには言われたないやろなぁ」

「個別に説得するのは限界かー」

「これ以上時間をかけるのもどうかと思います」

 同じ教室で過ごしているちなつの意見。


114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:42:37.69 ID:i7zt0Yjwo

「なんか、日を追うごとに段々気まずくなってるように見えますし」

「頭を冷やしてから、っていうのはなしなのね……」

 ただの喧嘩なら、気持ちが落ち着けば話くらいはできる雰囲気になるだろう。

 しかし、今回はややこしいことに、櫻子にとっての問題と、向日葵にとっての問題が噛み合っていないのだ。


115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:43:39.61 ID:i7zt0Yjwo

 向日葵にとっては、櫻子に本当に嫌われたのではないかという悩み。

 櫻子にとっては、撤回すると逆に向日葵のことが好きなように思われてしまうのではないかという悩み。

 どちらも、杞憂に過ぎないのは確定している。

 しかし、それを誤解なく伝えようと思ったら、当人たち同士が話をするしかない。

 それを理由はどうあれ、二人とも拒否しているというのが難題だ。


116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:44:08.45 ID:i7zt0Yjwo

 集まった面々も、頭を抱え、腕組みをし、どうしたものかと考え込む。

 そういうとき、案外難しく考えないほうが早く正答にたどりつくこともある。

 例えばそう、京子のように。

「話、させちゃえばいいじゃん」


117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:44:50.32 ID:i7zt0Yjwo

 即座に結衣が否定する。

「それができないから悩んでるんだろ」

「なんで? 方法なんていくらでもあるのに」

「歳納さん、なんか思いついたん?」

 逆に不思議そうな顔をする京子に、千歳が尋ねる。


118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:45:16.88 ID:i7zt0Yjwo

「話をするだけならなんとかなるんじゃない? たとえば──────」

 問われた京子は、すらすらと自分のアイデアを説明した。

 それを聞いた一同は、驚きと困惑をない交ぜにした表情で顔を見交わす。


119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:45:59.15 ID:i7zt0Yjwo

「そのやり方は……強引過ぎないか?」

「失敗したときとか、取り返しがつかないような……」

「古谷さんが賛成してくれるかどうかも問題やなぁ」

 京子の提示した案は、決してスマートなやり方ではなかった。

 シンプルゆえに強引で、一見すると博打にも近い手段と言っていい。

 しかし、喧々諤々の議論の後、ひとつの見解が生まれる。


120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:46:25.39 ID:i7zt0Yjwo

「……そうだな。本当に喧嘩して、仲直りしたいんだったら、苦しい思いをする必要があるのかも」

「赤座さん。赤座さんから見て、古谷さんにも悪いところはあると思う?」

 慎重に吟味するように、綾乃があかりに尋ねる。

「えっと……はい……」

 決定打となったのが櫻子の一言とはいえ、その櫻子を煽った向日葵にも、責任がないとはいえない。

 多分、それは向日葵自身も認めることだろう。


121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:46:56.39 ID:i7zt0Yjwo

「せやったら、古谷さんもちょっとは頑張らなあかんかもなぁ」

 誰もが、仲直りの結末は疑っていない。

 ただ、その後押しがどうしても必要なのだ。

「結局私たちにできるのなんて、状況をつくってあげることくらいじゃん」

「そうだな。仲直りするのは、本人たちなんだし」


122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:47:23.13 ID:i7zt0Yjwo

 それが、一同の結論だった。

 なにからなにまでを、すべて周りの人間に任せていては、本当の仲直りとは言えない。

 櫻子や向日葵も少しは、いや、二人こそがそのために一番がんばらなければいけないはずなのだ。


123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:47:49.60 ID:i7zt0Yjwo

「……やっちゃう?」

「やっちゃうの?」

「やっちゃおうか」

「じゃ、決定」

 ぽん、と京子が手を叩き、議論を締めくくった。


124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:48:16.51 ID:i7zt0Yjwo

 そこからは、具体的な手順を詰めるだけだった。

 場所と時間、決行のタイミングなど、京子の案に従って決めていく。

 これはさしたる議論もなく、一通りが決まったところで各人準備することを確認し、解散となった。


125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:49:16.90 ID:i7zt0Yjwo

 その後、あかりたちは週末までの数日間を、計画の準備に費やした。

 櫻子と向日葵の間に漂う気まずさを思うと、あかりやちなつは計画を前倒ししたいほどだったが、それにはひたすら耐える。

 誰よりも辛いのは、本人たちなのだから。

 それを彼女たち自身で乗り越えてこそ、意味がある。

 普段は夜ぐっすり休むあかりが、寝苦しい夜を過ごして数日。

 ようやく計画実行の日がやってきた。


126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:49:53.75 ID:i7zt0Yjwo




 この計画において、あかりの出番は多い。

 あかりが人材的にベターだったこともあるが、彼女自身が望んで引き受けたというのが大きい。

 最初から状況の打破に向けて努力してきたし、向日葵との約束もある。

 そうした決意の強さが、普段大人しいあかりに、積極的な行動を促していた。


127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:50:41.64 ID:i7zt0Yjwo

 当日、あかりに課せられた最初の任務は、櫻子に電話をかけることである。

 休日の、比較的早い朝の時間。

 櫻子の性格を考えるとまだ寝ているのではないかと思われたが、案の定、十数回目のコールでようやく応答があった。


128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:51:19.07 ID:i7zt0Yjwo

「・・・・・・あー? あかりちゃん?」

 明らかに寝起きの声。

 それでも起きてくれて良かったと、あかりは一安心する。

 もし繋がらなかったら、早くも計画の修正が必要になるところだった。


129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:51:52.62 ID:i7zt0Yjwo

「もしもし、櫻子ちゃんおはよう」

「おはよー・・・・・・で、どうしたの、朝早くに」

 櫻子のテンションは、かなり低いようだった。

 寝起きだからというだけではなく、学校と同じ状態が家でも続いているのだろう。


130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:52:48.84 ID:i7zt0Yjwo

「あのね、今日ちょっと遊びにいかない?」

 できるだけ不自然さを出さないように、努めて明るく振る舞う。

「櫻子ちゃん、ずっと落ち込んでるし、少し気分転換したほうがいいんじゃないかなって」

「・・・・・・んー。どうしよっかな」


131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:53:29.57 ID:i7zt0Yjwo

 困惑した声と、間。

 行くかどうか迷っているというよりは、行かない理由を探しているような声色だった。

「あかりも付き合うから、ね? ずっとそんな調子じゃ、体ももたないよ?」

 櫻子のことを心配しているのは、あかりの本心だ。

 その裏に隠している計画は、意識からはじき出す。


132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:53:59.79 ID:i7zt0Yjwo

 あかりの気遣いを感じてか、あるいはこの数日のストレスはやはり多大だったのか、櫻子は気乗りしないまでも、了承した。

「まあ、あかりちゃんと一緒なら……」

「よかったぁ!」

 これは本当に、あかりの本音だった。

 第一段階成功。


133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:54:41.76 ID:i7zt0Yjwo

「それじゃ、今から駅に来てね!」

「え、今から? 私ご飯まだ……」

「待ってるから!」

 櫻子がなにか言いかけていた気もするが、安心したあかりはそのまま電話を切った。


134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:55:08.89 ID:i7zt0Yjwo

 そのまま自分も出かける支度をしつつ、京子に成功の報告をメールする。

 送信して一分も経たないうちに、返信。

 了解と、作戦続行の指示。

「よーし、あかりがんばるよ~!」


135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:55:41.89 ID:i7zt0Yjwo

 気合を入れなおしたあかりは、櫻子を待たせないよう急いで家を飛び出した。

 が、電話後に朝食を摂った櫻子が駅に到着したのは、あかりが着いた三十分後だった。

(あかり、急いで来る必要なかったよ……)

 見事な空回りである。


136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:56:07.93 ID:i7zt0Yjwo




「で、どこ行くの?」

 あかりの促されるまま電車に乗った後、櫻子は尋ねた。

 いつもの元気さはないが、教室にいるときほど憂鬱そうな様子ではなかった。


137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:56:34.36 ID:i7zt0Yjwo

「遊園地だよ」

「えっ、そんなにお金ないけど!?」

 慌てる櫻子を前に、あかりは二枚組のチケットを取り出す。

「これ、乗り放題券。もらっちゃったんだぁ」

 本当は、みんなのカンパで買ったチケットだった。

 唐突に誘っても、櫻子が遊びに行くお金を持っているかどうかは怪しいところだったからだ。


138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:57:14.74 ID:i7zt0Yjwo

「使っちゃっていいの? わざわざ私と……」

「いいの。櫻子ちゃんに元気出してほしいから」

 それを聞いた櫻子は、若干照れくさそうな顔をした。

「ありがと、あかりちゃん。それじゃ、今日は思い切り遊ぼっか」

「うん!」

 櫻子には、また明るい女の子に戻ってほしい。



 そのために、今日は──────


139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:58:16.46 ID:i7zt0Yjwo




 遊園地に到着。

 チケットを見せてゲートを通ると……そこには見慣れた顔がそろっていた。

「遅いぞ、あかりー!」

「ごめんねみんな、お待たせー」


140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:58:43.12 ID:i7zt0Yjwo

 驚いたのは、櫻子である。

 京子、結衣、ちなつといった娯楽部の面々。

 綾乃と千歳の生徒会の先輩たち。

 そして──────向日葵も。


141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:59:23.42 ID:i7zt0Yjwo

(こんなの聞いてないよあかりちゃん……)

「……………………」

 やはりお互いに気まずく、櫻子と向日葵は目を合わせようとしない。

 とはいえ、ここでやっぱり帰るとは、なかなか言い出せない。

 誘ってくれたあかりに、悪意があるようには思えないのだからなおさらだ(もちろん、そうした効果も含めてあかりが誘う役に選ばれた)。


142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 00:59:49.84 ID:i7zt0Yjwo

「それじゃ、今日はこれからどうするの?」

「ペアで行動しようぜー!」

 そんな結衣と京子の会話も、打ち合わせ通りだ。

 ペアと聞いて、櫻子は体を硬くする。

 まさか向日葵と組ませようとしているのでは、と考えたのだが、それはすぐに否定される。


143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:00:25.69 ID:i7zt0Yjwo

「櫻子ちゃん、一緒にいこ!」

 みんなに挨拶を済ませたあかりが、戻ってくる。

 どうやら杞憂だったと知って、櫻子は少し気が楽になった。

 同時に、向日葵と離れることで気が楽になる自分に、嫌気が差してくる。

(なんか、やだな……いつもあんなにうっとうしいのに……)


144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:01:30.95 ID:i7zt0Yjwo

 ちらりと横目に向日葵を見ると、ちなつに誘われた歩き出しているところだった。

「向日葵ちゃん、最初なにがいい?」

「そうですわね……」

 気のない返事をしながら、向日葵の視線が一瞬、櫻子に向く。


145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:01:57.74 ID:i7zt0Yjwo

 ぶつかる視線。

 先に目を逸らしたのは、向日葵のほうだった。

(う~……なんかムカムカする!)

 イライラを隠すこともできず、櫻子はぷいっと顔を逸らした。


146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:02:28.88 ID:i7zt0Yjwo

「なんか今日のちなつちゃんは、素直に結衣から離れたね」

「うん。まあ理由は知ってるけど」

「ん?」

「ほなら船見さん、行こかー?」

「わかった。それじゃまた後でな、京子」

「おー。それじゃ私は綾乃とだねー」

「え、ちょ、千歳!? これ予定と違っ……!」


147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:03:07.62 ID:i7zt0Yjwo

 なにやら二年生組もちょっとしたハプニングがあったようだが、さておきあかりと櫻子も面白そうな乗り物を探して歩き出す。

「なにがいいかなぁ。あかり、あんまりびっくりするのはちょっと苦手かも」

「うーん」

 向日葵が乗らなさそうなの。

 と喉元まで出そうになった本音はなんとか飲み込み、考える。

 とにかく向日葵たちと遭遇しなさそうなものがいい。


148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:03:44.75 ID:i7zt0Yjwo

「……絶叫系?」

(苦手って言ったのに!?)

 とはいえ、趣旨的にも櫻子の意見を無視するわけにはいかない。

 結局、櫻子に付き合って連続で絶叫マシーンに乗るはめになったあかりは、数時間後にはすっかりぐったりしていたのだった。


149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:04:21.34 ID:i7zt0Yjwo




『ちなつちゃん、今どのあたり?』

『こっちは見える位置にいます』

『あかり、今どこ?』

『ごめんね、あともうすこし。おトイレ行くふりして、そっちのほうに行くね』


150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:05:07.59 ID:i7zt0Yjwo

「あかりちゃん、誰とメールしてんの?」

 手元を覗き込まれそうになったあかりは、慌てて携帯を閉じた。

「ちょ、ちょっと結衣ちゃんに。もう少ししたら合流しようかって」

 ふーん、と特に疑うことなく、櫻子はすぐに離れる。

 なんだかんだで連続絶叫マシーンを楽しんだのか、櫻子の機嫌はかなりよくなっていた。

 そろそろ、計画の本番にはいいタイミングだろう。


151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:05:45.80 ID:i7zt0Yjwo

「ちょっとあかり、おトイレ行ってくるね。その後ひとつ乗ったら終わりにしよっか」

「もうそんな時間かぁ。わかった」

 純粋に遊園地を楽しめた櫻子は、向日葵との諍いも一時的に忘れているようだった。



 ──────だからこそ、このタイミングなのである。


152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:06:18.46 ID:i7zt0Yjwo

『あかりたち、今から行くね』

『わかった。こっちも近くで待ってるから』

 トイレでちなつにメールをしてから、あかりは最後の仕上げに取り掛かる。


153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:07:02.74 ID:i7zt0Yjwo

「最後はちょっとのんびりしたのがいいな。観覧車、乗らない?」

「いいよー」

 なんの疑問も持たず、櫻子は頷いた。

 これで、ほぼ完成だ。

 櫻子を連れ、観覧車へ。


154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:07:28.88 ID:i7zt0Yjwo

「うっ……」

 そこには、ちなつと向日葵もいた。

「お待たせー」

「うん。それじゃ乗ろう」


155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:07:56.68 ID:i7zt0Yjwo

 気後れする櫻子を振り返ることもなく、あかりとちなつは観覧車へ乗り込もうとする。

 向日葵も、躊躇いがちにそれに続いた。

「もう……あかりちゃんってば……」

 仕方なく、櫻子も乗り込む。


156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:08:30.96 ID:i7zt0Yjwo

 四人乗りの席に、あかりとちなつが向かい合って乗ったため、櫻子と向日葵も自然に向かい合って乗ることになる。

 向日葵の顔を見る気にはなれないので、そのまま視線は窓の外に移した。

 ので、次のあかりやちなつの行動に対する反応が遅れる。

「あ、ちょっとごめんね」

「私も」

「え?」


157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:08:57.44 ID:i7zt0Yjwo

 スタッフの人が扉を閉めようとする直前、さっと立ち上がったあかりとちなつが、外へ出る。

「あ、あかりちゃ」

「閉めますねー」

 櫻子が立ち上がろうとするのと同時に、がちゃりと扉が閉められる。

 もはや出ることもできず、段々と離れていく地上を見下ろすばかり。


158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:09:41.58 ID:i7zt0Yjwo

 見ると、あかりやちなつばかりか、いつの間にか他のみんなも合流して、こちらに手を振っている。

(は……はめられたぁー!)

 櫻子はようやく、これがあかりたちの狙いだったことに気づく。

 密室に二人きり、それも観覧車となればそれなりの時間だ。

 櫻子と向日葵を観覧車に閉じ込めるのが、彼女たちの目的だったのだろう。


159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:10:25.24 ID:i7zt0Yjwo

 諦めて腰を下ろし、向かいの向日葵に目を向ける。

 うつむき加減でいるものの、うろたえたところがないところを見ると、どうやら向日葵もこのことは承知だったようだ。

「なんだよみんなして……」

 いくら櫻子でも、ここまでされれば、みんながなにを求めているのか理解できる。

 向日葵と話をするとしたら、このタイミングしかないだろう。


160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:10:51.71 ID:i7zt0Yjwo

 それにしても、唐突でどう切り出したものか思いつかない。

 沈黙。

(どうしよ……これでなにも話さないまま降りたら……)

 罠にかけられたとはいえ、みんなの期待や想いは本物だと思う。

 それを裏切るのは、やはり避けたかった。


161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:11:19.32 ID:i7zt0Yjwo

「さ、櫻子……?」

 なんとか話を切り出そうとない知恵を絞っていると、小さく向日葵が声をかけてきた。

 それだけのことで、胸がどきっとする。

 向日葵に名前を呼ばれるのが、とても久しぶりのような気がして。


162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:11:51.39 ID:i7zt0Yjwo

「な……なにっ?」

 向こうから話しかけてくるとは思っていなかった櫻子の返事は、かなり上ずっていた。

 それでも、一週間近くぶりに成立した、二人の会話。

 こんなにも長い間話をしなかったのは、幼い頃出会ってから、一度もなかった気がする。


163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:12:20.92 ID:i7zt0Yjwo

「……………………」

 向日葵のほうはといえば、こちらも櫻子に負けず劣らす緊張していた。

 櫻子と違い、一応事前にこの計画の説明はされていたのだが、それはたったの二点である。

 ひとつは、どこかで櫻子と二人きりで話をする場を設けるということ。

 もうひとつは、あかりからのお願い。


164:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:13:03.82 ID:i7zt0Yjwo




「向日葵ちゃんには、ひとつだけ頑張ってほしいの」

 計画の説明をしていたとき、あかりは向日葵の目を見つめ、真剣な口調で言った。

「櫻子ちゃんが向日葵ちゃんのことを嫌いかどうか、それは向日葵ちゃんの口から確認して」

「でも……」


165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:13:45.58 ID:i7zt0Yjwo

 それは、向日葵が一番怖れていることに触れるということだ。

 あかりは、それがどうしても必要だと言う。

「絶対大丈夫。あかりが保証するよ。だからお願い!」

 そう言ったあかりは、深々と頭を下げた。


166:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:14:18.42 ID:i7zt0Yjwo

 あかり自身は、その真偽について直接櫻子に確認を取っている。

 しかし、それをここで向日葵に話してしまえば、当人たちによる仲直りの機会を奪ってしまうことになる。

 だから、これがあかりにできる精一杯の誠意なのだ。


167:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:14:45.12 ID:i7zt0Yjwo

「……わかりましたわ。もし、そのタイミングが来たなら──────」

 あかりの本気さを理解した向日葵は、それを引き受けた。

 自分たちの問題なのだから、その解決を一から十まで他人任せというのは、卑怯というものだ。

 あかりががんばってくれた。

 なら自分も勇気を振り絞ろう。


168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:15:16.19 ID:i7zt0Yjwo

 ──────そう決意したはずなのに、なかなか言葉が出てこない。

 緊張のあまり、体が震える。

「……………………」

 櫻子が、怪訝そうにこちらを窺っている。


169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:16:16.93 ID:i7zt0Yjwo

 もう話しかけてしまった。

 このまま黙り込むわけにはいかない。

 膝の上でぎゅっと拳を握ると、向日葵は声を絞り出した。


170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:17:00.74 ID:i7zt0Yjwo

「櫻子は……私のことを、どう思ってますの……?」

 ひどいかすれ声。

 果たしてちゃんと伝わったかどうかも怪しい。

 しかし、櫻子が動揺した気配が、伝わってくる。

「ど、どうって……」


172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:17:33.02 ID:i7zt0Yjwo

 目を合わせられない。

 俯いたまま、ただ返事を待つ。

 長い沈黙。

 観覧車が半分回転し、頂上まで到達した頃、ようやく櫻子の口が開いた。


173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:18:10.66 ID:i7zt0Yjwo

「き……」



『きらい』



 その単語が脳裏をかすめ、心臓が破裂しそうになる。

 耳を塞ぎたくなる心を必死に叱咤し、櫻子が言い終わるのを待つ。


174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:18:49.89 ID:i7zt0Yjwo

「きらい、じゃ……」

 向日葵に負けない、小さくか細い声。



「きらいじゃ、ないよ……」



 向日葵が顔を上げる。

 そこには困ったような、照れたような、それでいて泣き出しそうな櫻子の顔があった。


175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:19:31.52 ID:i7zt0Yjwo

「櫻子……」

「きらいじゃ、ないもん……」

 その言葉を繰り返す。

「向日葵のこと、きらいじゃないもん!」

 ぎゅっと目をつむって、今度は大きな声で言った。

 再び、長い沈黙。


176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:20:02.07 ID:i7zt0Yjwo

「あ……」

 その言葉が向日葵の頭に染み渡り、理解するまで、随分な時間がかかった。

 そしてあのときと同じように、またぽろりと一滴の涙が零れた。


177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:20:29.05 ID:i7zt0Yjwo

「な、泣くなよっ!」

「だ……だって……私……」

 いつものように言い返すことができない。

 普段隠している弱い心が、櫻子の前だというのに、さらけ出されてしまう。


178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:21:03.80 ID:i7zt0Yjwo

「私……櫻子の気持ちなんて考えないし、優しくしないし……だから……」

 ぽろぽろと、溢れる涙は止まらない。

「本当に、櫻子に嫌われたかもって……ぐすっ……」

 素直な感情の吐露に、櫻子もまた戸惑う。

 自分の一言が、こんなにも向日葵を追い詰めていたのだと、改めて気づかされた。


179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:21:35.07 ID:i7zt0Yjwo

「だってそんなの、いつものことじゃんか……!」

 きらいなんて言葉は、本当にただの気まぐれ。

 向日葵との喧嘩なんて当たり前で、それ自体が櫻子なりのスキンシップの仕方でもあったのに。

 それでも、言ってはいけない言葉があったのだと、今の向日葵を見て思う。


180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:22:31.52 ID:i7zt0Yjwo

 いつも面倒見が良くて、なんだかんだで頼りになるから忘れていたのだ。

 向日葵も、自分と同い年の女の子なのだということを。

 傷つかないわけがない。

 悲しくならないわけがない。

 それを今唐突に理解して、櫻子は自分が口にした言葉の重みを、本当に理解した。


181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:23:44.01 ID:i7zt0Yjwo

「いつもみたいに怒っていいよ! それでも向日葵がそばにいてくれないと、やなんだもん!」

 向日葵と離れていた数日の、長さ。

 学校でも、家に帰ってからも、独りで過ごす時間の寒々しさ。

 大事なものが欠けている、この感覚。


182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:24:31.83 ID:i7zt0Yjwo

「もうこんな喧嘩やだ! 向日葵が言い返してこない喧嘩なんて、したくない!」

「でも……私は……」

 幼い頃に戻ったように、泣き止まない向日葵。

 それを見ていると、嫌だと思う気持ちと一緒に、湧きあがる気持ちがある。


183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:25:17.31 ID:i7zt0Yjwo

 多分、それは昔から持っていた。

 今まで、言葉にすることができなかっただけ。

「泣き止んでよ。いつもみたいに澄ました顔してろよ。私が笑ったら、一緒に笑ってよ!」

 向日葵の肩を掴む。

「怒られても叩かれてもいいよ! 私のそばにいてくれたら、それでいいよ! だって……」


184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:25:45.98 ID:i7zt0Yjwo


 がちゃり。



「向日葵のこと、好きだもん!!」


.


185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:26:30.07 ID:i7zt0Yjwo

 扉が開くのと同時に、櫻子の叫び声が響く。

 直後、はっとして二人が外を見ると、みんなが呆気に取られた顔をしていた。

 ──────気づかないうちに、既に下まで降りてきていたのだった。

「や……」

 誰かが口を開く。


186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:27:06.07 ID:i7zt0Yjwo

『やったぁーっ!!』

 あかりとちなつが抱き合い、結衣と千歳が安心した顔をして、綾乃と京子はにっこり笑った。

「仲直り大成功だよぉー!」

「よかったねあかりちゃん!」

「なんか、逆に吹っ切れちゃった気もするけど」

「それもええんやないかなぁ?」

「ひゅーひゅー!」

「こら、歳納京子! からかうもんじゃないわよ!」


187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:27:42.40 ID:i7zt0Yjwo

 みんなが口々にはやし立てるのを聞いて、固まっていた二人が動き出す。

「ぎ……」

 同時に叫んだ。

『ぎゃああああああああああああっ!!?』

 二人してのた打ち回る。


188:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:28:14.65 ID:i7zt0Yjwo

「……扉、閉めますねー」

 空気を読んだのか読めていないのか、スタッフの人がもう一度扉を閉めた。

 再び昇っていく二人。


189:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:28:41.50 ID:i7zt0Yjwo

『ななな、なんてことをしてくれましたの櫻子! もう恥ずかしくて降りられませんわ!』

『ち、ちげーし! あんなの勘違いだし!』

『なにをどう勘違いできますの!? あんな告白、言い逃れの余地なんて……』

『こ、告白とか言うなー!! あれはただの……』

『ただのなんですの? なんだっていうんですの!?』

『ただの……ただの“好き”だもん!』

『~っ……! ぜ、全然言い訳になってませんわー!!』


190:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:29:18.00 ID:i7zt0Yjwo

 段々遠くなる二人の声。

 しかし、それがいつもの調子に戻っていることは、全員がわかっていた。

「良かった……ほんとに良かったよぉ……」

 涙ぐむあかり。

 みんながあかりに、よくがんばったと褒め称える。


191:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:29:49.79 ID:i7zt0Yjwo

 そんな中、京子は喧嘩したまま二周目に突入した櫻子と向日葵を見上げ、けらけらと笑う。

「ほらねー結衣。こういうとき、速く回転する観覧車がほしいって思うだろー?」

「ん……ああ、あれのことか」

 いつぞや京子が言っていた、刺激のある乗り物。

 高速で回転する観覧車がほしいとか、言っていた気がする。


192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:30:38.88 ID:i7zt0Yjwo

「でも、違うんじゃないかな」

「え?」

 二人が遠くなる。

 もう声も聞こえなくなって──────



「こういうとき思うのは、きっと“時間よ止まれ”じゃないか?」


193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/26(月) 01:31:17.21 ID:i7zt0Yjwo

 やがて、その姿が地上からは見えなくなった頃。

 いがみ合っていたふたつの影が、そっと、優しく重なった。




   おしまい


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■コメント

 [名無しさん]

キスですか、ハグですか

 [名無しさん]

OK 完敗だ
こういうの好きだぜ

 [名無しさん]

素敵やなぁ・・・

 [名無し@まとめいと]

さくひまの素晴らしさといい
あかりの天使っぷりといい
最高ですね

 [名無しさん]

櫻子と向日葵の辛さがすごく伝わってきた 泣いた こんなにいいひまさくをありがとう

 [名無し]

コイツは最高にクールだぜ…

 [名無しさん]

ひまさくは至高

 [名無し]

お互いになかなか素直になれず、それでも本当は相手を想っている
これがひまさくか…

 [名無しさん]

すばらしいなあ

 [名無し]

結婚すればいいのに……
ほんとに素敵な作品です
今回はごらく部も登場して……
感動しましたさくひまは至高
■コメント


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