スポンサーサイト

このエントリーをはてなブックマークに追加  
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ひまさく短編 『イルカ』と『影』と『帰り道』

このエントリーをはてなブックマークに追加  
【ゆるゆり】大室櫻子ちゃん&古谷向日葵ちゃん応援スレ【ひまさく】 からの短編です。


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:10:03.22 ID:7UFYvrPf0

「ねぇねぇ、ペンギン! 私、ペンギン見にいきたい!」

唐突にこんなことを言われて、気の利いた言葉を返せる人がいるのだろうか。
いや、いないことはないだろう。たぶん、そういう人は、いわゆる機転の利く、頼りがいのある人だ。
でも残念なことにわたくしは歯の浮くセリフの一つも返せやしない。
だから、大学生になってもいまだ幼さの残るこの子に、今日もこんな言葉を返してしまった。

「はぁ? あなた、この間の課題がまだだったでしょう……寝言は寝てからになさい」
「えぇ~! 妖怪けちけち~……じゃなくって!」

大学からの帰り道。
二人で同じ道を歩いて、同じ所へ帰るすがら。
高校まで慣れ親しんだ土地と別れ、二人で決めた新天地。
知らないところの多い町で迎える初めての冬に、故郷ほどの脅威は感じないものの、
じわり忍び寄る寒さの気配に、どのように立ち向かうか手探りで歩く、そんな道の途中。

「夢見ヶ崎動物公園って、しってる?」
「……確か、ちょっと離れたところにある、ってやつですわね」

いつもは、唐突になにか言ってきたとしても、適当にあしらえばそれで終わりだった。
当人自身が、事実本当になにも考えてないからそれもそのはずである。
だから、もし続きが気になるようであったら、話に食いついて話題を広げる。そうでなければ切り捨てる。
……だから、向こうから同じ話を続けてくるだなんて、珍しいことだったから。


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:11:58.32 ID:7UFYvrPf0

「そうそう! やっぱ知ってるじゃん!」
「字面はとても愛らしいですけど……名前負けしてないのかしら」

だから、今日はちょっといつもと違うのかなと、二度目以降はちゃんと話を聞いてみる。
今日は休講の講義があり午前中で解放されたというのも大きい。
構内で昼食をとり、少し駅前をめぐってもなお日は高く。

「へっへ~、ということは知らないんだな!」
「なにがですの」

「いるんだよ、あそこには……ペンギンが!」
「……あらまぁ」

「しかもあそこ無料開放してるんだぜー!?」
「ずいぶんと太っ腹なことですわね」

歩きながら思い出す。
関東の大学を選び、一緒に住む部屋を決めて、今までの友人達にさよならを告げて。
それでも別に私たちは二人っきり天涯孤独というわけでもない。
大学でも様々に知人友人の輪を広げ……その中で、このあたりを地元とする人の話を、思い出す。

「せっかくちかいんだし、一度は行っておきたいよな~!」
「……たしか、まず一番に『動物園だと思ってはいけない』と言われたような」

その後に、山のうえに動物が居たり、広場があったりする公園なのだと聞いた。
そして、近くの幼稚園のでは定番のプチ遠足スポットな公園だと聞いた。
くわえて、自転車や徒歩で行くと、公園にたどり着くだけで一苦労だと聞いた。
とにかく、公園を強調された記憶がある。


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:14:21.41 ID:7UFYvrPf0

「どしたの? ぶつぶつ言って……」
「……この子も、その場にいましたわよね……」

ふと、隣を見る。

いつも太陽のように明るい少女がいるその定位置ではなく、逆を。
そこには、ほんの少し間をあけながら、並んで歩く二人分の影があった。

同じ速度で、輪郭だけで、表情がなくて、一つになることはなくて。

そこには二つの影があった。

「どうしたの今度はだんまりー?」
「……いえ、なんでもありませんわ」

別に何も感じない。
昔から変わらない距離。
右を見ても、左を見ても同じ痛みを感じてしまうのならば、前を向いてしまえばいい。
今は視界のどこにもない太陽が、その化身のような少女と同じく真横にあってくれればよかったのに。
そうすれば、お日様に向かう花はその目に櫻の花を焼きつけて、ひとつになることができるのに。


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:16:34.36 ID:7UFYvrPf0

「あ~、あの雲、おいしそうな形……」
「……ほかには」

私の内面の変化に気付いたのか、興味の対象が移ったのか。
隣の少女はぼんやりと空を眺めては、空想を広げているらしい。

少し歩みを速めれば距離が遠くなりそうな状況で、……私はそれをしなかった。
意識的に早く歩くことももちろんしなかったし、気を抜くと早足になりそうな体を、そうはさせまいとおさえつけた。

……そして、いつもは唐突に話を振られる側としては珍しく、こちらからも会話を続けてみようかなんて……。

「ん?」
「他には、ありませんの? その……行きたいところとか」

「私が?」
「えぇ」

「二人で?」
「そう……なりますわね」

「んん~……、いきなり言われてもなぁ……」
「……たとえば、ペンギン以外に見たいものとか」


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:17:00.65 ID:7UFYvrPf0

危ない。
いつもいきなり言われて困っているのはこっちだという言葉が、一瞬口を出かかった。
別にその辛さをわかってほしいとかじゃなくて、そもそも辛いとかでもなくて、
それに、せっかくなんだから、憎まれ口もなにもなく会話したっていいじゃないか。
そう思って不恰好ながらも助け舟を出してみた。
……決して、二人で、と聞かれて、心拍数があがったこととは関係がない。
いやむしろ、べ、別にそこを強調されたって顔が熱くなんてならないわけで……!

「ペンギンのほか……?」
「ま、まぁ、なんでもいいわけで」

「う~ん……あ! 水族館とか、いいかもね!」
「あら、あな…………いいアイディアですわね」

あなたにしては、という不必要な皮肉が口を飛び出しかけたが、慌てて引き戻した。
まだ今日という時間はたっぷりと有効に使える。
ケンカなんかしていたらもったいない。

「このあたりだと、どこだっけ……」
「えぇっと、八景島とか?」
「おぉっ! アトラクションとかもあるんだっけ!」
「あとは……江ノ島のほうとか、良さそうですわよね」
「そこって、ショーあるよね!? イルカ! 私、イルカみたい!!」


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:18:20.22 ID:7UFYvrPf0

思い立ったが吉日。動物公園の話はうやむやのうちに流れたが、まあいい。
ペンギンよりもイルカを選んだのか、水族館なら両方楽しめるからか。
……私が思うには、ただただ忘れているだけだと思う。おそらく。
なんにせよ、既に電車に揺られているこの状況では、何を言っても後の祭り。

「はぁ~、たのしみだなー!」
「たまにはこういうのも、いいですわね」

二人つり革につかまり、つぶやく。
平日の昼下がり。もうすぐでおやつ時にとどきそうな時分。
電車の中は、ちらほらと立っている人がいる程度の、まったりとした空間。
もう少しだけ人が少なければ、隣同士もっと近い距離で座れていたかもしれない、時間。

そういえば昔は、私のほうが背が高くて、先につり革に手が届いたのも自分だった。
今じゃ、ほとんど変わらないけど、ほんの少し負けている。
胸はまだ勝っているけれど、すらっとして、スタイルがよくて、……正直総合的に勝った気はしない。

ほどなく、最寄駅に到着した。
あまり調べもしないまま来てしまったが、改札を出てすぐに案内の表示を見つけて、なんとかなりそうだと一息。
水族館は海岸に出て道沿い。歩いてもさほど時間はかからないらしい。


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:19:16.25 ID:7UFYvrPf0

「おおおぉぉ~~~!! う、うみだぁーーーー!!」
「海くらい、向こうでも見たでしょうに……」

少しも歩かない内に水平線が見えると、いつもの距離をいつものように壊して駆け出していく。
自分からはできないそれに寂しさに似たよくわからない感情を抱きながら、早足でついていく。
ふと空を見て、足元を見ると、雲が二人の影法師を隠していた。

「ちがうちがう! わかってないなぁ! あっちは日本海で……こっちは太平洋だよ!!」
「言われなくてもわかりますわ」
「あっちはでっかい湖みたいなもんでしょ? こっちはなんせ世界最大のみずたまりだからね……!」
「……海は広いですわねー」

よくわからない基準でわなわな感動しているアホの子は置いておくとして、追いつき、追い抜いていく。
ついいつもの癖で売り言葉に買い言葉をしてしまったけれど、興奮して気付いていない様子。

よかった。

このまま、この一日を大切にしていかないと。

「ちょっと、置いていくなよぉ~!」
「ほら、いっしょに行きますわよ」

最初に置いていったのはどっちだとか、そんなことを微塵も思わない女の子になりたい。
定位置に戻ってきた笑顔に日が差しているのに気づいて、
いつのまにか差し込んだ太陽に、二人の影もいつもの距離を取り戻していることに安心した。


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:21:25.12 ID:7UFYvrPf0


…………。

……。


「余は満足じゃ!」
「イルカって、すごいんですのね……」

うちの姫様はたいそうご満悦のようで。
私自身、イルカのショー、と聞いて今まで持っていたイメージを、おおよそ塗り替えられた。

水族館を出た後も、歩きながらここがよかった、あそこがよかったと、二人で際限なくほめ続けた。
賞賛の言葉を述べながら、どこか頭の片隅で、あなたの良い所も負けないくらい挙げられるとか考えていたら。

「……あれ?」
「音楽の使い方も絶妙で……どうしましたの」
「島のほう……ピカピカ光ってる」
「島といっても一応歩いて向こうまで行けますけど……あぁそういえば」

江ノ島に来るまで、全く調べなかったわけではない。
家に寄らなかったためパソコンは使っていないが、交通アクセスなどを携帯でささっと調べはした。
そのときに、ちらっとこの近辺での催事を見たりもした。


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:23:06.32 ID:7UFYvrPf0

「花火……!?」
「たしか、今日だったかと……」

まだほんの少し明るい時間だけど、今日はイルミネーションの点灯祭もあるらしく。
遠目に島の一部が、街灯や家屋の照明とは違う灯りに彩られていく瞬間が見えた。

はっと地面をみやると、いつもと変わらない距離の"それ"らが、地面との境も曖昧にぼんやりと存在していた。

二つ分の、影。

少し……近付いた?

気のせいかもしれない。だって、こんなに暗いんだから。

もう少しで、重なりそうな。

気のせいかもしれない。だって、わたくしと、あなたは。

触れる。解ける。あと、ほんのわずか。めのまえ。

気のせいじゃないかもしれない。だって、櫻子と、向日葵は―――







夜の帳が落ちた。


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:24:30.73 ID:7UFYvrPf0


「あっ……」



無意識に、声が出たのは。どうしてだったろうか。
私はずっと、地面をみていたから、わからなかった。
ずっと、なにもみていなかったから、わからなかった。
子どもの頃の思い出の影遊びに、ふたりをかさねていた。
地面には、地面の色しかないから、影の行く末がわからない。



ふと

パッと

一つの影がうつしだされた。




35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:25:09.63 ID:7UFYvrPf0

それが音よりも速くやってきた花火の光によるものだと、
すぐに届いた轟音と、その中で聞こえた綺麗だともらす声で、私は気付いた。


顔を上げると、視界の端で咲いている二輪目の花火と、それを見つめる櫻子の横顔が見えた。
私が体ごと櫻子の方を向いているのに対し、櫻子は花火に真っ直ぐ相対していた。

まぶたに浮かぶ残像は、
わたくしのほうを、向いていなかったか……?

……わからない。

だって、くらかったから。
みえなかったから。


それは、


ぎゅーだったかもしれない。

ちゅーだったかもしれない。

なにもなかったかもしれない。


願わくば、二人の距離をゼロにするなにかが、あらんことを。
夜空と、櫻子を照らす花火をみながら、旅の思い出と、イルカと、なにかよくわからないものに願いをかけてみた。


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/09(金) 09:26:37.83 ID:7UFYvrPf0




「ねぇ、向日葵、ちょっと寒くない?」

「ん……長々と見てしまいましたからね」

現実への帰り道。
二人で同じ道を歩いて、同じ所へ帰るすがら。
差し出された手をつないだ姿が、街灯に照らしだされていた。
寄り添いながら、きゅっと結んだその一つ影を、今はただ二人で見ながら歩いていたかった。




――完――


関連記事

■コメント

 [名無しさん]

SSよりもラノベでありそうな感じ

 [名無しさん]

大人っぽくていいねぇ
■コメント


管理者にだけ表示を許可する

 


他ブログ様更新情報

about

ゆるしゆりしなSSをまとめています。

五月速報について
このエントリーをはてなブックマークに追加 follow me

リンク

SSサイト様
SS属性
SS深夜VIP完結スレまとめ保管庫
SS倉庫~SuperMilk~
明日につながるSS
SSいぱいまとめブログ
ストライク SS
原っぱの空き缶
SS速報VIPPER
ストーリア速報
魔王と勇者のSS物語
プロデューサーさんっ!SSですよ、SS!
ゆるゆりSS速報
SSウィーバー
百合チャンネル
えすえす・SS
あやめ速報
SS速報VIPまとめ
森きのこ
ひとよにちゃんねる
夜速報VIPSS
えすえすMode
SSジャンキーちゃんねる
かぎまとめ
VIPのSS
SSなSPECIAL
けいおん!SSまとめブログ

ニュースサイト様
=ナンコレ!!=
痛い相談(ノω`)
2ちゃん わらふく
世界は不公平
かがくのちからってすげー!速報
あひる印のシニアニュース
ニューソクロペディア
日本ちゃんねる

VIP系サイト様
人生デフラグ中
ララララ速報
たそがれvip-first-

アニメサイト様
速報 ガンダム売るよ!
ノムケン!!
おたじゅうぶろぐ
ゆりプラス+
みて娯楽

動画サイト様
【閲覧注意】

個人サイト様
個人的なネット小説リンク所

記事紹介サイト様
まとめのまとめ
俺のNEWS
SS徒歩5分

その他のサイト様
メイド速報局
2ch名人
VOCAL NEWS 2CH
こじきちゃんねる
2ちゃんねるアーカイブ

あんてなサイト様
百合ニュース
2chまとめ通信
しぃアンテナ(*゚ー゚)
LogPo!2ch
SSアンテナ
ワロタあんてな
ヌルポあんてな
シャキンあんてな
Googleアンテナ
チラアンテナ
Fast2ch
SSまとめアンテナ
まとめちゃんねる
2chまとめインデックス
SSまとめ倉庫
日刊SS
FC2 Blog Ranking

逆アクセス等

アクセスランキング

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。