『xx「撫子さんと眼鏡」』『xxx「撫子は私の彼女だ」』『撫子お姉ちゃんと優しい嘘』

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23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:27:22.15 ID:fEBNlCp50

「ここだよ、撫子さん。ここがさっき言ったところ」

ちりんちりん。

そんなに急がなくても大丈夫だよ、そんな寝言を聞き流しつつ、手を引いたまま扉をくぐる。
来客を知らせる鈴の音が、また良い雰囲気をかもし出している。

閉めるときは、あまり音が響かないように、ゆっくりと。
……自分でもわかるくらい心が昂ぶっている。


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:30:40.89 ID:fEBNlCp50


一緒にみたとある雑誌。
その雑誌に載っていた、オススメ度の高い喫茶店。
記事の中、店内の写真に添えられていた言葉は、……デートにぴったり。

コーヒーとカフェモカ。
復唱をしたウェイトレスさんが席から離れる。
注文した商品を待ちながら、改めて店内を見渡す。

あぁ、素敵なお店だなぁ。

すぐにお気に入りリストに加えることが決定した。
……まだ何も食べも飲みもしていないのに。



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:33:34.74 ID:fEBNlCp50

でもたぶん絶対大丈夫!

店内はとてもシック。
紺を基調として統一された店内。

椅子の背もたれの意匠。
壁に掛けられた柱時計。
カウンターの向こうにはまるでドラマに出てくるようなマスター。
キュッ、キュッっと、ロックグラスを静かに拭く姿が似合っている。

このお店、お酒もあるのかなぁ?

注文をとったウェイトレスからオーダーを聞き、作業を一時中断する。
コトリと置かれたグラスがキラリ窓から射す光を反射している。

磨きこまれたグラスを見ていると、視界の外、正面から声がかかった。


…………。

……。


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:35:39.15 ID:fEBNlCp50

私は撫子さんの彼女である。
巷では名前がないどころか撫子さんしかその存在を知らないという噂さえたっているらしい。

まったくもって理解ができない。

私はこうして存在して、放課後を迎えざわめきながらそれぞれの時間を過ごそうとするその他大勢のクラスメイトと同じく、
……大切な時間を送るために振り向いた。

窓側の席の前から3番目。
そこから振り向いたひとつ後ろの席にすわる女の子に話しかける。


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:36:51.23 ID:fEBNlCp50

「ねぇねぇ撫子さん! この本みてみて!」

机の脇に吊り下げたカバンから取り出した雑誌を、後ろに座る女の子にも見えるように広げる。

その女の子は、突然自分の机に広げられた本を見て、きょとんとしている。
付箋がつけられた箇所を一気に開いたのだから、もともとこのページがお目当てなのだとはすぐにわかるだろう。

「……なにこれ」

ぽつりと、淡白に返したこの女の子が、私の彼女の撫子さん。
クールで、ミステリアスで……情熱的。


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:38:36.70 ID:fEBNlCp50

「これねぇ、このカフェ、よさげじゃない?」

店内の写真をひとつ、指差しながら続ける。

「雑誌みてて思ったんだけど、あぁこんなところ、いってみたいなぁって……」
「ふぅん……」

「それでさ、ふと見たらこれ近くじゃないですか! お店!」
「えぇと……あ、確かに近所だね」

バンバンと興奮して机を叩く私と、
あの辺か……こんなお店あったのかなと頭に地図を思い浮かべているであろう撫子さん。


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:40:15.98 ID:fEBNlCp50

「だからねぇ! 撫子さん! 今日……何も用事ないって言ってたよね!?」
「えぇと、うん……」

「だから! 今日!」
「今日?」

「今日!」
「……はぁ、今日?」

「うん、今日! いきませんか!」
「これから?」


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:42:48.82 ID:fEBNlCp50

もっちろん! 元気よく答えながらこれまた元気よく立ち上がる私。
表情を変えずに立ち上がり、すっとカバンを肩にかける撫子さん。

……もちろん、私と撫子さんは彼女同士である。

撫子さんは決して嫌がっているわけではない。
少し恥ずかしがっているだけ。
だから、こうして撫子さんの手をひいて歩いていても、振り払われるようなことはない。

……そうして、今までめぐり合ったことのないような、大人っぽいお店の、大人の世界にたどり着いた。



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:44:29.68 ID:fEBNlCp50

「すっごいキョロキョロしてるよ」

視界の真ん中に、撫子さん。
視界の外で、コーヒー豆を挽いている音がする。

そんなに視線をあっちゃこっちゃ飛ばしていたのか。
指摘されて少し、恥ずかしくなる。

赤い顔を意識させないように、話を繰り出す。

「撫子さん、来てよかったね、ここ」

話しながらさりげなく視線を店内に巡らせることで撫子さんの意識を外に向けさせようという作戦は、失敗した。


35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:46:16.72 ID:fEBNlCp50

「……」

見つめられる。ますます照れる。

「て、照れるなぁ……」

頭をぽりぽりと掻きながら、正直に告げる。
視線は外れてくれない。

「えっと、撫子さんは、どう? このお店」

直接攻めることにした。
あまり回りくどい作戦は失敗するみたい。

「……いいね」
「うん、よかった」

撫子さんのまっすぐでピュアな瞳は、ようやく外れてくれた。
眼鏡を外し、レンズを拭く振りをしながら、私は撫子さんを盗み見る。


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:48:25.03 ID:fEBNlCp50

端正な顔立ち。
すらっとした体躯。

誰が見ても惹かれる容姿をしている。
他にもいいところを挙げようとおもったら数え切れず。

寡黙で誤解されそうだけど、みんな第一印象とは大違いと理解してくれる。
撫子さんは、しっかりした大人の女性だ。
その性格も含めて、みんなの人気者である。

私が好きになったところは……恥ずかしいから秘密。
自分からまた顔を赤くする理由はないしね。


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:50:36.27 ID:fEBNlCp50

ぐるっとまわった撫子さんの視線がもとに戻ってくるころ。
香ばしいかおりとともにウェイトレスさんが戻ってきた。

「こちら、本日のコーヒーと」

無言で撫子さんが手を挙げる。

「こちらがカフェモカですね」

合図をせずとも目の前にソーサーに乗ったカップが置かれ、会釈を返す。


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:52:29.81 ID:fEBNlCp50

「マグカップじゃないんだね」
「そうみたい……高そう」

撫子さん、それはちょっと直接すぎやしないかな……。
でも実際、こういった趣向に詳しくない私でも、いいものを使ってるんだなと思えた。

お味はどうだろう。
一口。

「……」
「……くもってるよ」

わかってます。そういって、眼鏡を外す。
ほほをとがらせた私の手からそれを奪う撫子さん。


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:55:53.19 ID:fEBNlCp50

「どうしたの?」
「ん、ちょっと借りるね」

すっと、眼鏡をかける撫子さん。


かわいい。


これは反則だ。
私の華やかさのかけらもない単調な眼鏡が、
一瞬できらびやかさのかたまりに化けるとは。

撫子さんがかけるだけでこんな化学変化がおきるだなんて、
ただのレンズとフレームの組み合わせが加わるだけで、こんなに魅力を増すだなんて。

……いやもちろん普段の撫子さんも充分魅力的だけれども。


41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 22:58:14.73 ID:fEBNlCp50

「……」

ぽかーんとしてしまった。

「うーん、やっぱり私眼鏡似合わないな……」

普段誰にも見せない撫子さんの姿が、ここにある。

「……い」

「っ!!?」

はて、目の前で普段何事にも動じない撫子さんが急に赤くなった。

「あ、あれ……? どうしたの、撫子さん」

「え!? あ、べ、別になんでもないよ……」

さっと、眼鏡を返される。
少し、残念。


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:00:36.92 ID:fEBNlCp50

受け取った眼鏡を装着する。
そこまで視力は悪くないものの、クリアさがました視界。
その中で非常に珍しいことに撫子さんはまだ若干もじもじしている。

「?」
「そんな、急に、かわいいだなんて……」

ボソボソと口の中で言葉をつむぐ撫子さんのその声が、かすかに聞こえた。
……どうやら無意識のうちに可愛いという言葉が私の口から漏れていたらしい。

―――どうして撫子さんは私の彼女なんだろう。

時々湧き上がるとめられない感情。

「やきもち、やいちゃうなぁ……」

あふれ出た言葉は無意識だったのか、意識してのことだったのか。

「……どうしたの」

先ほどまで赤い顔をしていた撫子さんが、平素よりも少しかたい面持ちでこちらを見据える。


43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:02:35.01 ID:fEBNlCp50

「……だって、撫子さん、かわいいんだもん」
「……」

撫子さんは何も言わずにただじっとその目をまっすぐ向けてくる。
受け止めてくれているのは、わかる。
理解しようとしてくれているのは、わかる。

あぁ、今度は私が、顔を赤くする番なのかな。
震える声で続ける。
鼻、もうきっと赤くなってるだろうな。

「私は、かわいくないから……撫子さんは、かわいいから……」

「メガネだって、私がつけてたってなぁんにも大したことないのに、撫子さんがかけるだけで全然違うものみたい」
「そんなこと……ない」

「あるよ、撫子さん、すごいかわいいもん」

「他の子とか、寄ってこないか、不安」

「……私も、見合うくらい、釣り合うくらいにかわいく、なりたいなぁ……」


45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:05:18.55 ID:fEBNlCp50

なんだか笑えてきた。
ふふっと、自嘲だか自虐だかよくわからない微笑みを浮かべながら、撫子さんと向かい合う。
途中から居たたまれなくなって見上げた瞳を、おろして。

「じゃないと、もっとやきもち膨らませちゃうことになりそうだもん……」

私はバカだ。
こんなことを言われて撫子さんがどう思うか、考えているのか。
いい気はしないはずだ。

ごめんね、撫子さん。
バカな子が彼女なんかやって、ごめんね。


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:09:40.11 ID:fEBNlCp50

「……じょうぶだよ」

ぼそり。
撫子さんの口が動いた。
無意識のうちに、聞き返す。

……バカなことを言ったって、いつも慌てず受け止めてくれる、撫子さん。


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:11:07.90 ID:fEBNlCp50

「……え?」

―――バカだよね、私。

「大丈夫だよ」

それに、

「モチやいたって」

答えてくれる、

「焦げちゃう前に」

私の、

「きちんと火からおろすから」

一番大好きな、

「……私が、全部食べちゃうから」

自慢の彼女。



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:13:46.79 ID:fEBNlCp50



やっぱりこのお店は素敵なお店だ。

これから先も、また来たいと思う。

大きくなっても、来たいと思える。

撫子さんと、ずっとふたりで来る。



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:17:43.73 ID:fEBNlCp50

私は撫子さんの彼女である。メタ的っていう言葉はよくわからない。
撫子さんは私のご自慢の彼女だ。
そして私も、撫子さんの自慢まんまんの彼女である。

餅焼いて地固まる。
確かそんなことわざがあったような。

昔のひとはほんといいことを言うもんだ。
今日の私たちを実によくあらわしている。
……迷惑かけたのは主に私だけど。




でも、それでも受け入れて一緒に歩いてくれる撫子さんのことが、大好きです。




ごちそうさまでーす。
ちりんちりーん。

響く鐘の音も、すがすがしい二人の心をあらわしているようで。

さぁ、一緒に帰りましょう。
これから先も、ずっと仲良くしてくださいね、撫子さん。




――完――



55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:25:28.93 ID:fEBNlCp50

上記短編は ttp://shindanmaker.com/28927 にて
『なでかのさんは、「昼のカフェ」で登場人物が「嫉妬する」、「眼鏡」という単語を使ったお話を考えて下さい。』
というなでかのにまさにうってつけなお題がより


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:28:17.78 ID:fEBNlCp50

『お題がより』ってなんやねん、『お題より』です

それでは引き続き、『xxx「撫子は私の彼女だ」』のお話でも。



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:29:42.83 ID:fEBNlCp50

私は撫子のいわゆる彼女。メタ的な意味……というのはよくわからないけれど、名前はない。
いや、なくはない。だけど……なんだろう、よくわからない。
ただ、私には、両親から授かった立派な名前がある。

……私のことはどうでもいい。

目の前でハンバーグをむさぼりたべているのは、大室撫子。
私は彼女のことをそのまま撫子と呼んでいる。
彼女が私のことをなんと呼ぶかは……だから私の話はどうでもよくって。

場所はよくあるファミリーレストラン。

女子高校生二人組にとって、優しい場所。

入りやすさも、周囲の目も、お財布にも。


58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:33:09.85 ID:fEBNlCp50

「……」

もぐもぐ、もぐもぐと。
先ほど店員さんが持ってきたハンバーグを、目の前で湯気をはなつそれを、どんどん口に入れていく。

いつもはどちらかというとシュッと鋭さを感じさせるその両頬に、精一杯お肉を詰め込んで。

「……撫子、あんた、ハムスターみたいだよ」
「……気にひにゃい」

私はドリンクバー一つで充分。

……長居するにも、これがうってつけ。


60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:36:11.42 ID:fEBNlCp50

撫子は美少女といっていいだろう。
年齢的にそろそろ『少』は抜けてもいいかもしれないけれど、
美女というにはわかすぎる。

もちろん、顔はいいが素行は悪い、というような子ではない。
そんな撫子がなぜ今目の前で向日葵の種を詰め込むげっ歯類のようになっているかというと。


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:39:36.52 ID:fEBNlCp50


「ケンカ、した?」


このお店に入る少し前のことを思い出す。

いきなりメールで呼び出されたかと思ったら、開口一番そんなセリフ。
オウム返しに聞き返すと、暗ーい辛そうな顔でうなずくのみ。

このまま会話を続けるには今日はいささか寒すぎたので、近くにあったこの店に避難。
お昼時をすこし過ぎた時間であったため、ちょうどいいことに客席もまばらで。

適度なざわつきも込み入った話をするにはうってつけであった。



63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:43:12.49 ID:fEBNlCp50

あと3口ほどで食事を終えそうなこの娘は、どうやら友人とケンカをしてしまったらしい。
それ以降の話は、まだ聞いていない。

ここのチェーン店は、注文をしてから商品が来るまでが異様に早い。
だから、話を始めるより先に食事が始まってしまった。

まぁでもそれでかまわない。

食べているうちに気持ちも少し落ち着くだろうしね。

……それにしてもすごい食べっぷり。
お昼ごはんを食べていなかったのだろうか。

さ、あたたかいコーヒーを飲みながら友人とケンカした彼女が食べ終わるのをじっと待ってあげでもしましょうかね。


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:46:44.39 ID:fEBNlCp50

「はい、撫子もコーヒー。 砂糖ちょっといれといたから」
「ありがと。 ……いつも助かる」

気になさんな。そういって席に腰を下ろす。
撫子の分と自分のおかわり分。

カップにゆらゆら黒い液面が揺らいでいる。

撫子には、砂糖を少し。
私にも、砂糖を少し。

スティックシュガー1本分を分け合って使う。
それがいつもの私たち。

さ、2杯のコーヒーも準備できたことだし、愚痴を聞く時間の始まりですかね。




―――チクリと胸が痛む時に備えて、ミルクもいれてきたほうがよかったかな―――


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:52:09.43 ID:fEBNlCp50

私もよく人様からクールだねなどと言われることが多いが、
撫子もまさに同じようである。

それゆえか、二人並んで廊下を歩いていると、
遠くからクールビューティーズだの、お似合いだのという黄色い声が聞こえる。

私たちが通うのは、同じ女子高。
ついでに言えば、同じクラス。


そして、件のケンカした友人というのも、同じクラスのとあるほんわかとした女の子であった。



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:55:11.47 ID:fEBNlCp50

ぽつぽつと始まったその愚痴は、今も延々と続いていた。
コーヒーは更に2杯ずつ追加。
私はこの手元にある1杯からミルクを入れることにした。

ぐちぐち。

みんな、こんな撫子のことをよくクールだとか言う。
全然そんなんじゃないと私は思う。

はいはい。そうだねー。
そうなんだー。そりゃたいへんだー。

この辺の言い回しでおおむねなんとかなる。




―――まったく、ほんと―――



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/31(土) 23:58:19.60 ID:fEBNlCp50

大体、愚痴といったものの、最初こそ愚痴っぽいところもなきにしもあらずであったが、
次第にその内容はとても仲の良い友人とののろけ話のように感じられてくる。

事実、その認識は間違っていないだろう。

だから、私はそれを受け流すだけで済む。
それだけで、時間が流れていく。

本当にドリンクバーというやつは便利だ。

……5杯目のコーヒーは、更に甘さを投入したものとなった。


72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:06:08.85 ID:Wq3TOoDq0

「ねぇ、聞いてる!?」

ハッとした。

「聞いてる聞いてる、だいじょぶだって」
「ほんと……?」

慌てて答える。
撫子は訝しげにこっちを見ていたが、すぐにもとの話に戻った。




―――ほんと、うらやましい―――



74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:15:06.89 ID:Wq3TOoDq0

「ねぇ、私さ、どうしたらいいと思う?」

そんな問いかけを、される。

茶色いコーヒーの入ったカップを同じソーサーに戻しながら答える。

「そうだねぇ……」

よし、いつも通り返事が出来ている。
カップを置く際、少し手が震えていたのかカチャカチャっと音を立てた。

……なんて、こたえよう。

……正直、つらい。




―――好きな女の子に、延々と彼女とのノロケを聞かされるのは―――



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:17:30.78 ID:Wq3TOoDq0

一方的な片想いだった。

しかも、その相手には、ラブラブの彼女さんがいて。

その二人ともが自分と同じクラスなものだから、否が応でも視界に入ってくる。

正直辛かった。

でも、二人とも大切な友人で。

特に、撫子にとって私は、あの子の次に大切な友人だ。

少なくとも私はそう自負している。

……だからいまこうして延々と聞きたくない話を必死に演技をしながら聞き続けている。



友人としての、あるべき姿を。




76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:18:46.54 ID:Wq3TOoDq0

撫子の大切な友人という関係は、私にとって良いものなのだろうか。

考えようによっては、今ケンカしている二人を別れさせるよう誘導もできるのか。

……そんなこと、できるのか?

奪うようなこと。

……できるはずがない。

そんなことしたくない。
しようと思ったこともない。

悲しむ二人の顔なんて、見たくない。

撫子を悲しませたくない。

仮初めの幸せなんていらない、撫子が、本当に笑っていられるように!


―――クールな女の子で、良かったよ。


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:20:45.63 ID:Wq3TOoDq0

方針が決まったら、後は簡単だ。
散々愚痴は吐き出させた。いいかげんすっきりしているだろう。

そうしたら、後は相槌程度だった返事をちょっと変えるだけ。

仲直りしようと思うよう、誘導させるだけ。








思ったとおり、それはすごく簡単にいった。


79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:24:40.10 ID:Wq3TOoDq0

「ありがとう。じゃあ私、ちょっと行ってくるね」

「おうー、さっさといってこーい」

荷物を抱え、席を立つ撫子。

……去り際に、カバンからチラリ眼鏡ケースが見えた。
普段はコンタクトの撫子が、それを外した時につけるもの。

私は、この中身を見ることができない。

ファンデーションも、アイシャドウも化粧落としもマフラーも忘れることはない。
破れたストッキングの代わりをもらうこともない。
同じシャンプーの匂いをただよわせたとしても、それは偽り。

真実は、この恋心だけ。
他に代えることのできない、想い。
忘れるしかない、一方通行の道。


80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:27:22.08 ID:Wq3TOoDq0

カラっとした空に、カラっとした心。
からから、空っぽ。

去り際に垣間見えた郷愁。
そしてあの子に向かいながらに残していった、言葉。

「今日はほんとありがとう。変なことに付き合わせてごめんね」
「……もしまた何かあったら頼んじゃうかもしれないけど。大好き」

その言葉は彼女さんに言ってやんな。

今さらぽつりひとりごちた。
ひらひらと手を振り返すことしかできなかったからな、くそう。
こんなセリフをすっと返せていたら、私の株ももう少し上がっていたかもしれない。

「……あの子はいい子だからな、勝てなくてもしかた―――」



81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:28:00.53 ID:Wq3TOoDq0

パンパンと頬を叩き、その続きをかき消す。

いけないいけないと、深呼吸。
気合いの入ったついでに勢いよく立ち上がる。

家に帰ったら餅を焼こう。
鏡開きにはだいぶ早いけれど、沢山食べてやろう。
どうせ正月で太るんだったら、おもいっきりやけぐいしてやる。

……それが終わったら、またどんどん撫子に私の良い所を見せ付けてやるんだ。
だってまだ諦めたわけじゃない。
そりゃあ弱みにつけこんで略奪するようなことは絶対にしないけど、
もしかしたら撫子のほうから私を選んでくるかもしれないもんね。

今年はあの子に負けたけれど来年のことはまだまだまだまだわからない。

仲直りした撫子に、いつまでもいっしょだよねとか言っているのかな。
来年の話をすると鬼に笑われるというのに!

再来月の節分は、鬼の役目を自分から志願してもいいかもと思いながら、一人の道を意気揚々と進むのであった。




――完――



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/01(日) 00:30:20.58 ID:Wq3TOoDq0

以上、『xx「撫子さんと眼鏡」』、および、『xxx「撫子は私の彼女だ」』のお話でした。



730:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:32:43.63 ID:kSSyubua0

「撫子お姉ちゃん、こんな時間にたべちゃって、晩ご飯大丈夫なの?」

注文を取りにきたウェイトレスさんに、
飲み物二つに加えてクロックムッシュをオーダーしたのは、
花子の上の姉である、撫子お姉ちゃん。

窓から射す西日が店内に長い影を伸ばしている。
そういうつもりじゃなかったのに、まぶしさを疎んじているとでも思ったのか、
店員さんがブラインドをシュッと下ろす。
季節柄、日はすぐに沈むだろうに。

夕日の届かなくなった店内は、同色の人工の光に照らされている。
他にお客さんのいない近所のカフェ。
ちょっと付き合ってよという姉に連れられ、二人ここまでやってきた……し。


733:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:34:29.29 ID:kSSyubua0

「大丈夫、このくらい別腹だよ」

この後に控えているのは甘いものの類ではなくご飯だけどそれでも別腹になるのかな。
まぁもう高校生で大人だからその辺りの自己管理も出来ているのかな。

「……それに、今日のご飯の担当は櫻子だから」

自分なりに理由を推測しているところに、もっともらしい言い分が出てきた。
下の姉は、頭も、体も、ちょっと色々と足りない。
その中には料理の腕前も含まれていた。


734:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:35:01.25 ID:kSSyubua0

お先こちら、お飲み物ですね。
先ほど注文を取ったお姉さんとは別の人がそう言って持ってくる。

コーヒーのお客様、という呼びかけに撫子お姉ちゃんが応じる。
……ただし、あちらは最初からコーヒーは姉のほうだろうと予想していたようで。

次いで届いたロイヤルミルクティーのお客様という声は、
問いではなく単なる確認のように聞こえた。

それは、消去法からくるものか。
それとも、二人を見比べたときのイメージからくるものか。

注文の風景を見ていただけかもしれないけれど、少し納得がいかないし。
憮然とした面持ちで平坦にはい、と返事をする。


735:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:35:27.34 ID:kSSyubua0

食事の方はもう少し時間がかかるみたい。
二人だけの空間がまた訪れる。

今日はどうしたんだろう。
ただコーヒーが飲みたかっただけということはあるまい。
甘く温かい飲み物を、ふーふー、ちびちび、と少しずつ冷ましつつ飲みながら、上目遣いで見つめる。

片手でブラックコーヒーをくいっと飲む仕草がとても様になっている。
……花子の視線には気付いているのやらいないのやら。

話し始めるまでのんびり待つとしよう。
そういえば姉に誘われて初めて入ったお店だけど、落ち着きのあるとても大人っぽいお店。
この年季の入った円卓も、よく手入れされていて古臭さよりも清潔さが際立つ。
店内にぽつぽつと主張しすぎない程度にある調度品たちも、ほこりや汚れが見当たらない。

好感触。
素敵なお店。
それを知っている撫子お姉ちゃんも、素敵。

そんな店内を巡らす視線に気付いたのか、撫子お姉ちゃんが口を開く。

「私も友人に教わったんだけど」

「いい店でしょ」

まだ数えるほどしか来ていないけどとか、雑誌に載ってたんだよとか、そんな話が続く。
雑誌に載ったのなら、もう少しお客さんがいてもよさそうだけど、この穴場感もお店の雰囲気を向上させているのかな。

うん、いいお店。


736:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:35:45.42 ID:kSSyubua0

ぽつりぽつりと続いた話が勢いを無くしていったころ、本題が始まった。

「今日はいきなりごめんね、花子」
「別に……花子も撫子お姉ちゃんと一緒でうれしいし」

ありがと。カップを口に付けながらそう返す撫子お姉ちゃん。


「……そういえばこの間櫻子がね―――」


櫻子がすごいバカなことをした。
考え付かないような大事件。撫子おねえちゃんにもひま子お姉ちゃんにも迷惑をかけた、と。

「……」

嘘だ。

櫻子はバカだけど、あれで多少なり考えている。さすがにそんなことはしない。
花子よりも長い時間櫻子を見ている撫子お姉ちゃんにも、それは、わかるはずだし。

だから、表情を変えずじっと撫子お姉ちゃんを見る。

はぁ、ため息が聞こえる。
じっと、見る。


737:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:36:04.93 ID:kSSyubua0

静寂を裂くように、最後の商品が届いた。
ハムとチーズがはさまれた、焼きたてのトースト。
立ち昇る湯気と、こんがりキツネ色の表面、焼いたパンとバターの匂いが混ざり合って食欲をくすぐる。

「花子も、食べる?」

食べたそうに見えちゃったかな。
別にそんなことはないのに。
……でも、見ているだけで、食指が動くのも確か。

「じゃあ、一口だけ」

一口だけもらうし。
ん。と差し出される三角形に切られたパン。
ありがと、とその端っこにかぶりつく。


738:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:36:18.69 ID:kSSyubua0

「……おいし」

自分も一口食べた撫子お姉ちゃんが、そうだねと返す。

おいしい。

もぐもぐと口を働かせる。
食べている間は良い。
何も喋らずともいいから。
ゆっくりと考えごとができるから。

おそらく撫子お姉ちゃんも同じだろう。

黙々と食べる姉の顔を、いつもと同じクールなその顔を、ずっと見ていた。


739:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:36:50.49 ID:kSSyubua0

ごくん。

完食。
姉が最後の一口を飲み込む。

コーヒーを口に運び、一息つく。

「……この間の雨上がり、虹がでたじゃない」
「ん、けっこうはっきりくっきり出てたし」

虹の根元には、素敵なものがあるって話、知ってる?
唐突に始まった、お友達と夢を目指した冒険譚。

……子供だましにも程がある、魔法と希望のファンタジー。

またも嘘。
それもわかっているから、表情を変えない。

いったい何をその胸に秘めているのか。


740:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:37:10.27 ID:kSSyubua0



本題はまだ始まらなかったようだ。
……撫子お姉ちゃんがそんな非現実のお話をするだなんて珍しいしとは思ったけど。
そういえば、お友達の話が出たとき、少し声のトーンが下がったような。
櫻子だったら気がつかないくらい、ほんのわずか。

そのお友達は、撫子お姉ちゃんの一番の仲良しで、花子も会ったことがある。
この前も泊まりに来てたけど……ケンカでもしたのかな。


741:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:37:58.70 ID:kSSyubua0

嘘をふたつ。

花子にはバレている。
どうしたの、どうか、したの。

心配だけど、花子にはじっと見つめることしかできない。

「大丈夫。 ……別に、なんともないよ」

そう言って、
細く、長く息をつく。

お互いに、表情は変えない。
その理由を考えると、ちょっと悲しくなるけれど。
それでも姉の優しさが、胸に。

ぬるくなったミルクティーは、さっきよりも甘く感じた。

感じるお姉ちゃんの不器用な優しさを、胸に。


742:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:39:24.22 ID:kSSyubua0

帰り道。

「……ごめんね、花子が子どもで」

「大丈夫、大丈夫だよ。 ……ちょっと楽になったし」

今日ついた嘘は3つか、4つか。
願わくば、優しい嘘は、せめて一つだけであるように。

撫子お姉ちゃんが、大きく口を開けてはぁ、と息を吐き出す。
白い息がもやっと舞い、すぐに消える。

花子も、はぁ……と、白い息をついてみる。

家に帰ったら、なにかとうるさい櫻子が待っている。
騒がしいのも嫌いじゃないけど、撫子お姉ちゃんと過ごす静かな時間も好き。

今度あのお店に撫子お姉ちゃんと行くときは、もう少し大人になってからにしよう。

もっと、あのお店が似合うくらいに。

もっと、お姉ちゃんに頼られるくらいに。

ひそかな決意を胸に、元気な声でただいまを家に響かせた。




――完――



743:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:41:34.46 ID:kSSyubua0

以上、『撫子お姉ちゃんと優しい嘘』のお話でした。


場所は『xx「撫子さんと眼鏡」』と同じ。
時間は『xxx「撫子は私の彼女だ」』の前。

彼女さんとケンカした撫子さんが花子を連れ出す、へたれ娘と優秀娘のお話。


744:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/02(月) 12:42:45.13 ID:kSSyubua0

やべ書き忘れた
『「夕方のカフェ」で登場人物が「嘘をつく」、「吐息」という単語を使ったお話を考えて下さい。』
より。


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■コメント

 [名無しさん]

1個目すごい良かった
でも2個目は彼女じゃない…よな?

 [名無し]

ほとんど本編に出てないのに、彼女設定だけでこんなに話を作れるとは

 [名無しさん]

2個目は別人ってことか
■コメント


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