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ちなつ「今でも私を好きでいてくれますか」

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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:10:14.39 ID:DW0Crdqf0


あかり「あのね、ちなつちゃん」


なんでもないような顔をして、あかりちゃんはふと立ち止まった。
私はあかりちゃんの少し前を行っていたから、「付き合ってほしいなぁ、なんて」
その言葉を背中で聞いていた。



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:15:54.63 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「どうして?」

一瞬だけ揺らいだ心は、自分のその声で沈んでいった。
あかりちゃんが困ったような顔をしているのは、振り向かなくてもわかる。
もう、三年だ。あかりちゃんと一緒にいるのは。それくらい、なんとなくわかってしまう。

あかり「どうしてって」

慰めてくれなくていいよ。
あかりちゃんの同情なんて、いらない。優しさだって必要ない。

いつものように、そう吐き捨てようとして。

あかり「返事は、今じゃなくていいから」

ちなつ「あかりちゃん、私は」

あかり「ちゃんと、考えてほしいの」

いつもとは少し違った強い声に、私は言い返せなくなる。
そのままそっぽを向いたまま、立ち止まった足を再び動かして。
あかりちゃんも、何事もなかったみたいに後ろをついてきた。


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:20:51.97 ID:DW0Crdqf0



結衣先輩に告白して、付き合い始めたのはちょうど一年前くらいだったと思う。
私が二年生に上がって、先輩が三年生になった頃。

茶道部と間違えて入部してしまったごらく部という、もう一人の先輩である京子先輩が作った
よくわからない部活。
そこで出会ったのが、王子様みたいにかっこいい結衣先輩だった。

ちなつ「あ、あの、あのですね結衣先輩……!」

結衣「いいよ、ちなつちゃん。無理しなくても」

付き合い始めた頃の私たちは、きっと全てうまくいっていた、と思う。
それは私だけだったのかもしれないし、私だって、本当はどこかに違和感を感じていたのかも
しれないけど。


9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:26:22.34 ID:DW0Crdqf0

手を繋ぐことすら、あの頃は精一杯だった。
キスはおろか、抱きつくことすらあまりに難易度が高すぎて。
今思えば、もうちょっとどうにかしてしまえばよかったのかもしれない。

どうせ、こうなってしまうのだったら。

結衣「やっぱり、私たち合わないんじゃないかな」

最初にぽつりとそう言い出したのは結衣先輩だった。
私だって薄々感じてはいたけれど、口にしたのは結衣先輩が最初。

合わない。
きっと、合わないというのはお互いの気持ちのことだ。


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:30:35.93 ID:DW0Crdqf0

私と結衣先輩の気持ちには、きっとズレがあったのだ。
そのズレが、だんだんだんだん、時間を経るにつれて大きくなっていって。
それでもう、修正がきかなくなってしまったのだ。

「私、付き合うとかそういうのまだよくわからないんだけど、いいかな?」

確かに最初、結衣先輩はそう言っていた。
私はそれでもいいです、と大袈裟に頷いてみせた。どうしても、結衣先輩との特別な
つながりがほしくて。

それに、自信がなかったわけじゃないのだ。
むしろ自信があった。結衣先輩の全部のココロを独り占めできると。
そんな変な自信が、私の中で存在してしまっていたのだ。


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:34:53.58 ID:DW0Crdqf0

それは結局、ただの自意識過剰に過ぎなかったわけだけど。

やっぱり、私たちは合わないんじゃないかな。

その言葉を機に、私たちがなんとなく築き上げてきた関係は一気に壊れてしまった。
ただの先輩後輩にも戻れないんじゃないかと、私はひどく怖くて。
それくらいに、私と結衣先輩の関係は脆かったのだと気付いてしまったから。

実際には、今でもそれとなく交流は続いている。
けれど、どちらにしても私と結衣先輩の気持ちが合わさることはなかった。


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:45:01.37 ID:DW0Crdqf0

三年生の受験が終わると、結衣先輩はまた、ぽつりと言った。
別れようか。
私はただ、こくりと頷いて。

付き合えたって、そこにお互いの気持ちがなければ同じなのだ。
振り返ってみれば、ただの空虚な日々。虚しいだけなのだと、14歳の冬、私は気付いてしまった。

別れてから先輩たちが卒業してしまう数週間の間、私たちは変わらずにいた。
京子先輩には最後に心配をかけたくなかったし、あかりちゃんにも少し言い辛かった。
せめてごらく部の中でだけは結衣先輩といつも通り傍にいたい、という気持ちのほうが大きかったのかもしれないけれど。

卒業式の日、結衣先輩はこっそり私を呼び出して、言った。
「今でも私を好きでいてくれる?」


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 17:50:37.26 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「……はい」

精一杯の、嫌味と。
ほんの少しの、本音。

結衣先輩は初めて、泣きそうな顔をした。
それも、一瞬だけだったけれど。
確かに泣きそうな顔をしたあと、「ごめんね」と言った。

今度こそ、私たちが恋人でいられる時間がなくなってしまったのだと。
その時初めて、私は意識した。

だから。

私はその日、やっぱり初めて、泣いた。
結衣先輩が帰ってしまっても中々鞄を置いてある教室に戻ってこない私を心配して
迎えに来てくれたあかりちゃんの前で。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:00:06.35 ID:DW0Crdqf0

わかっていた。
あかりちゃんのことだから、結衣先輩に振られてしまった私を慰めてくれると。
励ましてくれると。

わかっていたから、泣けなかったし話せなかった。

せめて、結衣先輩がいる間は終わりにしたくなかったのだ。
あかりちゃんの優しさに触れてしまえば、私は自分自身をかわいそうなヒロインにしてしまいそうだったから。
そんなことには、したくなかった。初めて本気で好きになった人なのだから。
そんなふうに自分を仕立て上げてしまうのは、悲しいだけの恋になってしまいそうで、悔しかった。

だから、堪えていたのに。
結局私は、あかりちゃんの前ではなにも隠すことができなくなってしまうのだ。
私があかりちゃんのことをよく知っているように、あかりちゃんも私のことをよく知っているから。


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:05:43.10 ID:DW0Crdqf0

あの日泣いてしまってから私は結局かわいそうなヒロインだ。
少なくとも、あかりちゃんの中では私はそんなふうになってしまったに決まっている。

春が終わり、もう少しで夏が来る。
それでもあかりちゃんの中で、私のイメージはそのままなのかもしれない。
そりゃ、いつまでたってもしょげている私だって悪いのだろうけど。

ちなつ「……」

私たちも、もう三年生。
受験だってあるんだし、付き合うとかそんなこと考えてる暇なんてないよ。
ベッドに寝転び、制服のまま、書きかけのメール。


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:14:07.86 ID:DW0Crdqf0

『返事は、今じゃなくていいから』

あかりちゃんの、いつもと少し違う声が頭を過って、私は小さく溜息を吐いて
目を閉じた。

今じゃなくていいから、なんてあかりちゃんは大人ぶってそう言ったけれど、
そもそも答えはわかっているはずじゃない。
それに、私だって律儀に返答メールを送らなくったって。

そうは思っても、あんなあかりちゃんの声は初めてで、なんとなくこのままなのは
居心地が悪かった。

どれだけあかりちゃんの優しさやお節介が鬱陶しかったって、私にとってあかりちゃんは
大切な友達には変わり無いのだ。
失いたくはないと思う、失っても仕方ないような態度ばかりをあかりちゃんにとっているけれど、
それでも一緒にいてくれる友達を失くすのはバカだ。

だからさっさと――


22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:17:54.45 ID:DW0Crdqf0

『ちゃんと、考えてほしいの』

ちなつ「……」

ちゃんとって、なによ。
溜息混じりに押し出した、声。声になっていないような、言葉。

私はしばらく、携帯画面をじっと見上げたまま。
ピッ
書きかけていたメール画面を、削除した。


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:24:53.62 ID:DW0Crdqf0

―――――
 ―――――

あかり「ちなつちゃん、おはよぉ」

朝一番、私に駆け寄ってくるのは誰でもなくあかりちゃんだ。
先輩たちが卒業して、いつもの場所に待ち合わせるのは私たち二人だけ。
まだ先輩たちがいた頃は、どちらかといえばあかりちゃんより先に京子先輩が
「ちなちゅー!」と駆け寄ってきたけど、今は誰よりも先に、あかりちゃんが。

ちなつ「おはよ」

あかり「今日は、あっついなぁ」

少し息を切らせながらあかりちゃんが言う。
昨日もおんなじこと言ってた、と私は答えながら歩き始める。そうだった?とあかりちゃんが
言いながら後をついてきて。


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:30:43.01 ID:DW0Crdqf0

私より一歩くらい先、あかりちゃんが追い越した。

あかりちゃんが私より先を歩くなんて、珍しい。
普段はちょこんと隣にいるか、私が早歩きでわざとあかりちゃんを追いてくかなのに。

ちなつ「あかりちゃん、急いでるの?」

そう声をかけると、あかりちゃんは「えっと」とそう言ったっきり黙りこんだ。
なんだろう。
ぼんやりそう考えていると、あかりちゃんの手が、というよりも指先が視界に映った。


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:35:51.75 ID:DW0Crdqf0

それが、少し前の自分と結衣先輩に重なった。
手を繋ぐ方法を必死に考えていた私と、それからそんな私に気付いてそっと握ってくれた結衣先輩。

ちなつ「……」

あかり「……」

それがまた、なんとなく気に障る。
迷っているようなあかりちゃんの手を無視して、私はわざと違う話ばかりを振った。
あかりちゃんもそれに答えを返しながら、やがて所在の無い手はそっと前へ隠された。


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:38:32.20 ID:DW0Crdqf0

ごめんね、と思うときはある。
あかりちゃんだって、私のために色々考えてくれているのだ。

そんなの、わかっているし。
あかりちゃんんそんな気持ちを、仇で返したくはない。
けれど、今の私にはまだ整理のつけようがなくって。

結衣先輩のことを忘れることで、精一杯なのだ。

それ以外、考えられない。
だから、こんなふうな態度でごめんねとあかりちゃんの目を見て言ってあげることはできないし、
いつも一緒にいてくれてありがとうとも言えるはずなんてない。


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:42:44.21 ID:DW0Crdqf0

――――― ――

ちなつ「あかりちゃん、無理しなくたっていいってば」

午前の授業、昼休み、それから午後の授業――
一日というのは、どれだけ傷心中であってもきっかり過ぎていくものだ。
ぼんやり過ごしていれば、いつのまにか一日が終わっていて、そして私はいつのまにか
ごらく部の部室で頬杖をついているのだ。

あかり「へ?」

あかりちゃんの戸惑ったような声が、二人きりの部室に響いて消えていった。


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:46:47.46 ID:DW0Crdqf0

新入部員は、いるわけがない。
先輩たちがいる間はもうこの四人だけで過ごそうと決めていたし、卒業してしまってから
今までは、私がこんなだから新入部員を呼び込む気も起こらなかったしあかりちゃんだってそうだったのだろう。
そのために、夏はもうすぐ目前だというのに私たちの部活には一年生も二年生も存在していない。

ちなつ「だから、ちょっと無理してるでしょ」

私は頬杖をつくのをやめ、氷の入った冷たい麦茶をぐいっと飲み干してあかりちゃんを
見た。
あかりちゃんは、私と視線を合わせようとせずに湯飲みに伸ばしかけていた手を
膝の上に置いて俯く。


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:50:43.56 ID:DW0Crdqf0

あかり「無理って?」

ちなつ「……私と無理して付き合おうとしなくていいってこと」

そう言うと、あかりちゃんは図星だというように、あまりにもわかりやすく顔を
真っ赤に染めた。

ちなつ「朝から頑張ってるのは知ってるよ」

あかり「う……」

登校時に手を繋ごうとしてきたほかに、授業中の合間だったり昼休みだったり、
それとなく私の気を惹こうとしてきたのはちゃんとわかっていた。
こんなふうなことを私は結衣先輩に対してやっていたのかなあと憂鬱な気分になりながら、
わざと気付かない振りをしていただけで。


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 18:58:05.64 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「でも私は」

運動部の声だろうか。
今までは気付かなかったのに、二人だけでいるせいか離れにあるはずのこの部室にも
放課後の喧騒というものがぽつりぽつりと聞こえてくる。

そんな声に、私の声はかき消されてしまった。
それとも、最後まで言うのを躊躇ってしまったのだろうか。

あかり「それでも、頑張るよ」

あかりちゃんが、あまりにも真剣な顔をするから。

あかり、ちゃんとちなつちゃんに笑ってほしいから。
あかりじゃ物足りないかもしれないけど。

そんなふうにあかりちゃんは言って、照れ臭そうな笑顔を浮かべた。


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 19:06:14.70 ID:DW0Crdqf0

あかりちゃんは、自分の優しさが時に残酷だと気付かないのだろうか。
あかりちゃんのこんな笑顔を見ていると、時々私はわからなくなる。
このままあかりちゃんに甘えてしまえば、楽になれるのかもしれない。
ふと、そんなことも考えてしまって。

けれど。
結局、だめなのだ。このまま、名目上繋がってしまったって。
傷付くのはお互いなのだとわかっている。わかってしまった。

ちなつ「……勝手にしなさいよ」

そう言って、私はあかりちゃんの笑顔から逃れた。
机に突っ伏した顔が、なんだか少し、熱かった。


35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 19:14:17.16 ID:DW0Crdqf0



それから、尚更あかりちゃんと一緒にいる時間は多くなった。
もちろん今までだって毎日一緒だったけど、それ以上に、なんだか、あかりちゃんを
近くに感じるようになって。

ただの気のせいなのかもしれない。
それとも、私があかりちゃんを意識しだしたからなのだろうか。

今まで、あかりちゃんのことをなんとはなしに頭の片隅で捉えていたのに、
最近では片隅だけでなく、色々なところで、あかりちゃんを捉えてしまうようになった。
あかりちゃんがいなければ落ち着かないわけではないけれど、時々、あかりちゃんを
探してしまうくらいには。

あかり「ちなつちゃん、お待たせー」


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 19:20:10.03 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「あかりちゃん遅い!日焼けしちゃうでしょーもう」

あかり「もう夕方だよ!?」

夕方でも焼けちゃうよ、夏なんだし。
部室から少し離れた花壇に水遣りに行っていたあかりちゃんが帰ってきて、私は
重い鞄をあかりちゃんに手渡した。

あかり「ありがとぉ」

ちなつ「もうチャイム鳴っちゃうし、早く外出よ」

あかり「うん」

教科書ばかりの鞄を持っていると、物理的な重さだけでなく気持ち的にもなんだか
ひどく重く感じるようになってしまう。
あと少し先とはいえ、だんだん受験が近付いてきている。


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 19:23:48.46 ID:DW0Crdqf0

それなのに、私は今まであかりちゃんの志望校を知らずにいた。
なんとなく聞けずにいたのだ。そういえば、あかりちゃんと進路の話をすることだって
なかったように思う。どうしても、その話題を避けてしまっていたのだ。

ちなつ「……」

あかり「もうこんな時間なのに太陽さんまだあんなところだよぉ」

流れてくる汗を拭いながら、あかりちゃんが隣を歩きながら笑った。
私は少しだけ深く息を吸うと、立ち止まって。

あかりちゃんの手を掴みぐっと引いた。


40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 19:34:35.46 ID:DW0Crdqf0

驚いたように、あかりちゃんが「ち、ちなつちゃん?」と声を上げて振り返る。
掴んだ手は、少し湿っていた。

ちなつ「あ、えっと……あのね、あかりちゃん」

あかり「う、うん」

どうしてだろう。
あかりちゃんが、あまりにも恥ずかしそうに頬を染めているから、私までそれが
移ってきてしまう。進路を聞くためだけなのに。そもそも、手だってこうして掴む必要はなかった。

そういえば、これはいつからだっただろうか。
あかりちゃんと、スキンシップをしなくなったのは。ああ、たぶん結衣先輩と付き合い始めてから。
私はあかりちゃんだけじゃなく、他の人とも極端に、触れ合うことを嫌った。
もちろん、必要があれば触れるけれど、必要がないときにはできるだけ、私は。


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:05:00.16 ID:DW0Crdqf0

触れたくなかった、というよりは触れることがこわかったのだろう。
そうすることで結衣先輩に触れた感触を、温もりを、少しでも消したくはなかったのだ。
それくらいまで、きっと私は結衣先輩のことが好きだったのだと思う。
そこまで好きになった人なのだ。

けれど、今は。

あかり「……ちなつちゃん?」

探るように名前を呼ばれて、私はハッとした。
ああ、ごめんと笑って。


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:07:24.07 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「えっと、あかりちゃんは高校、どこ行くつもりなのかなあって」

あかり「あかり?」

こくんと頷くと、あかりちゃんは「ちなつちゃんは」と逆に問い返してきた。
私は答えを躊躇いつつも、この辺りじゃかなりの難関だと言われる高校の名前を口にした。
今のままじゃ絶対に受からないと言われているから、そう簡単に口に出すことは躊躇われる。


49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:09:46.47 ID:DW0Crdqf0

あかり「あかりもそこだよ」

ちなつ「えっ」

驚いたことに、あかりちゃんはそう言った。
確かにあかりちゃんは私よりも成績はいい。けれどあかりちゃんならもう少し上を
目指せるはずだし――

『付き合ってほしいなぁ、なんて』

ふと、その言葉が思い出された。
あかりちゃんは。
もしかして、というような思いが頭をかすめる。


50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:12:21.24 ID:DW0Crdqf0

あかりちゃんはもしかして、やっぱり私を気にしているからなんじゃないかと。
私を気にしているから同じ高校に行くって。

慰め、同情、かわいそう。

そんな言葉ばかりが、ぐるぐると頭をまわる。
私は掴んだあかりちゃんの手を、振りほどくようにして離した。

あかり「ち、ちなつちゃん……?」

探るような、あかりちゃんの声。
私は、出来るだけ消え入らないように、それでも震える声で、言った。

ちなつ「やめてよ、そういうの」


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:15:21.79 ID:DW0Crdqf0

あかり「へ……?」

ちなつ「やめてよ、あかりちゃんはあかりちゃんの行きたいとこいけばいいじゃない!
    私のことなんて気にしなくていいんだから!なのになんで――」

何かが、邪魔をしている。
形にならないなにかが、素直に、あかりちゃんの言葉を受け止めてはくれない。
私の頭が、拒絶反応を起こしている。

あかり「ちな――」

ちなつ「もう、やめてよ……っ」

あかり「好きだから!」


52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:18:17.84 ID:DW0Crdqf0

突然の大声に。
私はようやく気付いたように、あかりちゃんを見た。焦点の合っていなかった視線が
あかりちゃんに注がれる。

ちなつ「あかりちゃん……」

あかりちゃんの表情は、今にも泣き出しそうに見えたし、怒っているようにも見えたし、
なにかに苦しんでいるようにも見えた。もしかして全部なのかもしれない、と私はぼんやり思う。

あかり「好きだからだよ!あかり、ちなつちゃんのことが好きだから!だから
    あかりはそこに行きたいし、ちなつちゃんのためじゃなくってあかりの――」

ふさいだ、耳。
あかりちゃんの声、聞こえない。その振り。

なにも、知らない私は。
聞きたくなんてない、いやだ、こわい。

そんなふうな気持ちが、溢れ出てきて。涙にかわる。

ちなつ「……ごめん」

なにに対してのごめんなのか自分でもよくわからないままに私はそう言って、
呆然としているあかりちゃんの隣をすり抜けた。


54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:30:12.72 ID:DW0Crdqf0



ようやく、悟った。
私はこわいのだ、きっと。

怯えている。誰かを好きになることに対して臆病になっていて。

ちなつ「……」

あかりちゃんの声を、表情を、思い出す。
その度に、胸の奥のどこかが軋み悲鳴をあげ、私はただ、布団の中でうずくまることしか
できなかった。


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:33:32.82 ID:DW0Crdqf0

うそつき。
心のどこかが、そう言っている。

あかりちゃんの言葉は全部嘘。
優しさだって、全部全部嘘だと。

でもそのたび、私は逆にあかりちゃんの優しさを、笑顔を、思い出してしまう。
真直ぐな言葉を、思い出してしまうのだ。
嘘には思えなくて。私はどうしても、すがってしまいそうになる。


58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:42:56.93 ID:DW0Crdqf0

――違う。
本当はもう、すがっているのだ、あかりちゃんに。

わかっていたはずだった。
あかりちゃんの気持ちに。
気付いていないわけなんてない。

わかっていたのだ。
なのに私はあえて無視して、それでも傍にいた。
本当に嫌なら、あかりちゃんの言葉を無視するなら、離れればよかったのに。
私はそうせずにいたじゃない。

傍にいたかったのだ、あかりちゃんの。


59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:47:49.94 ID:DW0Crdqf0

でも、認めるのが怖いから。
あかりちゃんの声を、遮った。私の気持ちに、蓋をした。

もう一度傷付きたいとは思わない。
結衣先輩以上に好きになれる人なんてきっといない。
そんな思いが、私を雁字搦めにしている。

開きかけた携帯。
それを、私は閉じた。

瞳も閉じて。
心も、閉じた。


60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 20:52:34.45 ID:DW0Crdqf0

―――――
 ―――――

その日を境に、あかりちゃんとの距離は驚く程遠ざかっていった。
近付くためには何日も何ヶ月も必要なのに、遠ざかるのは呆れる程に早い。

あっという間に、あかりちゃんは私と遠い存在になってしまった。

幸い私たちはお互い他にも友達はいたし、おまけに受験シーズンに突入したために
今まで仲良かった二人が一緒にいなくなってもさして気に留められることはなかった。
変な噂が流れなくて良かったと、私はぼんやり考えながら毎日を過ごして。

そしてふと、あかりちゃんのことを想うのだ。
あかりちゃんがいるのが当たり前だった日のことを思って、ほんの少しだけ、心を軋ませる。

けれど、違う。
そう、自分に言い聞かせる。これはきっと、仲の良かった友達と仲違いしてしまったときの痛みだと
そう言い聞かせて。溢れそうになる心を必死に押し留めて。


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:09:29.09 ID:DW0Crdqf0

このまま、何事もなく中学校生活が終わればいい。
そう、祈るような気持ちで思っていたけれど。心のどこかで、期待していたのかもしれない。

受験数日前の深夜だった。
携帯が、着信を知らせた。久し振りにディスプレイに映った電話番号。

ちなつ「……結衣先輩?」

結衣『こんな時間にごめん、もうちょっとで受験だよね』

はい、と小さな声で答えた。
携帯を握る手に、力がこもる。
どこを受けるのかは、結衣先輩に伝えていなかった。それでもずっと、私のことを
気にしてはくれているのだろう、卒業してから何度か電話をくれてはいた。

結衣『頑張って、って言いたくって』


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:14:57.57 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「が、頑張りますっ」

つい反射的にそう答えると、結衣先輩が小さく笑ったのがわかった。
ああ、だけど。
それだけで、別のこともわかってしまった。

結衣『ちなつちゃん、あのさ』

先輩は、本当はほかの理由で電話してきたのだ。
それがなんなのかは想像はつかなかったけど。
だから私は、「今でも私を好きでいてくれる?」卒業式の日と同じ質問をされて、
答えに詰まった。

なにも、答えることが出来なかった。

結衣『……なんて、ごめんね。勉強の邪魔しちゃってたよね、また』

数秒だけ待ったあと、結衣先輩は唐突に電話を切った。
私はわけがわからないまま、ただ通信音のきれた携帯をずっと、耳に押し当てていた。


65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:19:17.41 ID:DW0Crdqf0

次の日、同じクラスの向日葵ちゃんから結衣先輩が誰かと付き合っているらしいという話を
聞いた。
相手は聞かなかった。

幼馴染の京子先輩かもしれないし、もしかすると別の人かもしれない。
どちらにしても、もう私は関係ないし付き合っている人が重要なわけではなくて。

その話を聞いて、すぐに自分の席へ戻ってから。
私はふと、気付いてしまった。

『今でも私を好きでいてくれる?』

昨日の結衣先輩の、あの言葉の答えに。


67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:27:40.25 ID:DW0Crdqf0

―――――
 ―――――


『今でも私を好きでいてくれますか』


―――――
 ―――――


68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:31:05.39 ID:DW0Crdqf0

受験が終わった。
ようやく重荷から解放された気分で、だけどたぶん、一番重いものがこの先待っている。
そう思うと、私の心はまた少し揺らいだけれど。

卒業前。
少しでも、前を向きたかった。

それはきっと、結衣先輩だって願っていることだろうから。


69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:35:21.16 ID:DW0Crdqf0



受験前日の晩、私は結衣先輩に電話をした。
結衣先輩の声を聞くためじゃない、応援してもらうためでもない。
ただ、伝えることがあった。

結衣『明日、受験?』

ちなつ「はい」

結衣『そっか。頑張ってね』

ここにきても、どこを受けるのかは聞かれなかった。
結衣先輩も、同じ学校を受けるとは到底思っていないのだろう。けれど、それで
いいと思った。それも結衣先輩のひどいところであり優しいところなのだ。

私は結局、結衣先輩の中にはいられない。
そして私は。


70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:37:21.80 ID:DW0Crdqf0

ちなつ「結衣先輩」

結衣『うん?』

ちなつ「前の、答え」

すっと息を吸った。
逆に、結衣先輩が息をひそめたのがわかった。

『今でも私を好きでいてくれる?』

ちなつ「『はい』です」


71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:43:02.79 ID:DW0Crdqf0

結衣「ちなつちゃ……」

ちなつ「『はい』だけど……でも、たぶん、一番じゃ、なくって」

そこまで言って、突然、声が震え始める。
随分と弱くなった涙腺から涙が溢れてとまらなくなって。それでも私の言葉は、
きちんと結衣先輩に届いてくれた。

そっか。
結衣先輩はそう、優しく言ってくれて。

結衣『ありがとう』

その言葉できっと私は、全てが固まったのだと思う。
結衣先輩とは、これでほんとにさよならだとしても。
きっと後悔はしない。最後にちゃんと、私の気持ちは届いてくれた。
そして結衣先輩だって。私のことを、きちんと考えてくれていたのだとわかったから。

結衣『前を向いてくれて、ありがとう』




74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:54:39.83 ID:DW0Crdqf0

あかり「……ちなつちゃん!」

放課後、ごらく部の部室。
誰もいない、二人だけの。

息を切らせたようなあかりちゃんが、戸口に立っていた。


75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 21:55:02.56 ID:DW0Crdqf0

受験の日。
賭けのようなものだった。
あかりちゃんの携帯に送った、一通のメール。

『今でも私を好きでいてくれますか』

あの日から返信はなかった。
それでもこの場所で待ち続けていた。

ちなつ「あかりちゃん」

そっと、名前を呼んでみて。
それでようやく、ああ、あかりちゃんが来てくれたのだとぼんやり感じる。

ちなつ「あかりちゃん、私」

あかり「好きだよ」


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 22:02:11.26 ID:DW0Crdqf0

私が言うより先に、あかりちゃんがそう言った。
好きだよ。
それがあかりちゃんの答えだと理解するより先に、「ちなつちゃんっ」とあかりちゃんの
温もりを身体全体に受け止めていた。

あかり「好きだよ、ちなつちゃん……!あかり、ほんとに、ずっと、諦め切れなくて……!」

泣き声だった。
あかりちゃんの声。

私は小さく、ほんとに小さく、吐息をつくと。

ちなつ「私も、あかりちゃんのこと」

好き。
そう声にすれば、ただただその気持ちが溢れてしょうがなくなる。
本当に好き。あかりちゃんのことが、ただ好きで、それだけで。

あかりちゃんは私の胸にしがみついたまま、静かに泣いていた。
私もきっと、あかりちゃんと同じで。ただ二人、静かに泣いていた。


79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/29(木) 22:11:17.56 ID:DW0Crdqf0



その後の話。

私たちは二人とも、第一志望校には落ちてしまった。
お互い伝えていた志望校とは違う高校を受けていたから、落ちて悲しむべきなのか
喜ぶべきなのかわからないと言い合って笑った。

第二志望である私立高校は、私たち二人ともコースは違えど同じ学校だったから、
一緒に通うことになる。

あかり「高校生、楽しみだなぁ」

ちなつ「あかりちゃんがいればなんでも楽しいだろうけど」

あかり「えへへ……」

付き合う、なんてことはまだよくわからないし。
失敗したことだってたくさんあるけど。
だけど、それでも私たちは同じ気持ちでいられる。

隣を歩く、あかりちゃんの手に自分の手を滑り込ませてみて。
私は笑う。あかりちゃんも、笑ってくれる。

だから前を向いても、きっと大丈夫。そう信じてみたい。




終わり


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■コメント

 [名無しさん]

感動するね。あかちなはやっぱり感動ものが多い。
それにしても自分の人生は小さいな

 [名無し]

あかちなはほろ苦甘くて素晴らしい

 [名無しさん]

あかちなのSSを読んで感動できる、幸せじゃないか

 [名無しさん]

いつものちなあかの人か
いつも通りの素晴らしい出来だ
若いっていいね……
■コメント


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